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1日15分の免疫学(126)免疫応答の操作④

本「免疫抑制状態腫瘍が成長する例として、固形臓器の移植後で免疫抑制状態にしている患者で起きる移植後のリンパ球増殖性疾患がある」
大林「感染症とかでもないのにリンパ球が増殖する病態ってことかな」
本「これは、エプスタイン・バール(EB)ウイルス感染によりB細胞増殖するもので、免疫が正常であればB細胞が腫瘍化される前に感染細胞が排除される」
大林「EBウイルスか!別の章で学習したやつだ!キス病!」

本「腫瘍はT細胞応答誘導するような新規の腫瘍特異抗原を持っていないかもしれない。持っていたとしても抗原提示細胞により提示される際に補助刺激シグナルがなければ免疫寛容誘導する傾向がある」
大林「まぁ、腫瘍細胞は実際に『自己』だもんなぁ…」
本「どれくらいの期間、腫瘍が自己とみなされているかわからない」
大林「グレーゾーンからブラックに切り替わる段階で排除対象になるのかな」
本「腫瘍の全ゲノム解析の結果、T細胞に異物として認識されうる抗原ペプチドが突然変異で10-15種類は生じる可能性が最近明らかになった」
大林「ほぉ~その抗原が前もってわかるなら治療に使えそうだね」
本「腫瘍化に伴いMHCクラスⅠb蛋白質(MIC-A,MIC-Bなど)の発現誘導が起こることがあり、これらはNKG2DのリガンドなのでNK細胞が認識できる」
大林「やったぁ!NK細胞が倒してくれる!」
本「けど腫瘍細胞は遺伝的に不安定なので、認識されないクローンが生まれて免れる可能性がある」
大林「腫瘍細胞はMHCを発現しないこともあるんだよね、そうなるとT細胞がその腫瘍細胞を認識できなくなる」
本「それは大腸がん子宮頸がんで起こるね。特定のMHCが発現するT細胞による選択の結果だろうと考えられている」
大林「選択?あぁ、T細胞がMHC認識で腫瘍細胞を排除するから、MHCを発現してない腫瘍細胞が生き残るってことか。でもMHCが出てないとNK細胞が認識するんだよね。認識するというか、キラー能力にMHCによるブレーキかからないというか」
本「あるMHCクラスⅠ分子を発現しなくなった腫瘍は、CD8T細胞による認識は免れ、NK細胞に対しては抵抗性を保っている」
大林「えっ?!そうなの?なにその抵抗性って、詳しく!」

◆復習メモ
T細胞自己非自己を認識できる免疫細胞。胸腺Thymusで成熟するためT細胞と呼ばれる。T細胞受容体(TCR:T cell receptor)をもつ。

T細胞の主な種類
CD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞(Th1,Th2,T17,Tfhなどがある)と制御性T細胞Treg:Regulatory T cellに分かれる):B細胞などを補助helpして活性化し、免疫応答を誘導する。適応免疫の司令塔。
CD8陽性T細胞(細胞傷害性T細胞=キラーT細胞):標的細胞に接触して直接傷害する(細胞死に誘導する)。
※CD分類:細胞の表面にある分子の分類基準。

本「MHCクラスⅠ分子の発現が低下した腫瘍細胞はCD8T細胞には殺されにくくなるがNK細胞に殺されやすくなる」
NK細胞(Natural Killer cell):自然免疫応答での細胞傷害(キラー)を担うリンパ球。異常細胞をアポトーシス(細胞死)に誘導することで排除する。
大林「MHCクラスⅠ分子がNK細胞にとってのブレーキのひとつなんだよね」
NK細胞は、正常にMHC分子を発現している標的細胞を殺さないように抑制されるため、異常なペプチドが付着しているMHCをもつ感染細胞を傷害する
本「NK細胞にはMHCクラスⅠ分子に結合する抑制性レセプターがあるからね」
大林「NK細胞が攻撃抑制されるがん細胞へはCD8T細胞が攻撃して、CD8T細胞が認識できないがん細胞はNK細胞の抑制がかからないからNK細胞が攻撃する……NKとCTLで補い合ってるゥ!」
※CTL(Cytotoxic T lymphocyte)細胞傷害性T細胞CD8陽性T細胞:適応免疫応答での細胞傷害(キラー)を担うリンパ球。

本「ヌードマウスは T細胞を欠くが、NK細胞は正常マウスより多い。NK細胞に殺されやすい腫瘍細胞をヌードマウスに植えると正常なマウスより育ちにくい」
大林「NK細胞が倒すからか」
本「その腫瘍細胞にMHCクラスⅠ遺伝子を導入するとNK細胞への抵抗性とCD8T細胞への感受性が上がる」
大林「OK、把握」

腫瘍による免疫回避

本「腫瘍は免疫抑制的な微小環境を作り、免疫の攻撃を回避しているかもしれない」
大林「抑制性サイトカインを作ってるんだっけ」

◆復習メモ
サイトカイン(cytokine)
:細胞が分泌する低分子のタンパク質で生理活性物質の総称。細胞間の相互作用に関与する。cyto(細胞)+kine(作動因子※)の造語※kinein:「動く」(ギリシア語)に由来する

サイトカインの種類
ケモカイン(Chemokine):白血球(免疫細胞の総称)をケモカインの濃度の濃い方へ遊走させる(普段は血流等の流れに乗っている)。※本によっては、サイトカインとケモカインは別項目となっている

インターフェロン(Interferon;IFN):感染等に対応するために分泌される糖タンパク質※。ウイルスの細胞内増殖も抑制する(※タンパク質を構成するアミノ酸の一部に糖鎖が結合したもの)

インターロイキン(Interleukin;IL)※見つかった順でナンバリング:リンパ球等が分泌するペプチド・タンパク質。免疫作用を誘導する。

腫瘍壊死因子(Tumor Necrosis Factor;TNF):その名の通り、腫瘍を壊死させる機能を持つ。

トランスフォーミング増殖因子β(Transforming Growth Factor-β:TGF-β
:細胞増殖・分化を制御し、細胞死を促すことが知られているサイトカイン。
本「TGF-βは腫瘍の培養上清中に見つかったので この名前がついた」
大林「培養上清?」
WEB「培養上清とは、人の体内に存在する幹細胞を培養液の中で培養した際に得られる、その上澄み溶液

本「TGF-βは、さまざまながん組織でみつかり、腫瘍抗原に反応して特異的に増える可能性のある誘導性Tregの分化を誘導する。マウスではTregを除くとがんへの抵抗性が増すが、TregをもたないマウスにTregを養子移入するとがん細胞がより増える」
大林「Tregを取り除くと、攻撃のブレーキ役がいなくなるからがんへの攻撃力が増す。元からTregがいないと、Tregをいれたことでがんへの攻撃にブレーキがかかるからがんが更に増殖するってことか」

本「いくつかの腫瘍の微小環境には、骨髄由来免疫抑制細胞myeloid-derived suppressor cell:MDSCと称される細胞種がいて、これが腫瘍内で T 細胞の活性化抑えている可能性がある」
大林「称されるということは1種類の細胞ではないということ?」
本「単球や多核白血球を含むよ。まだよく分かってない」
大林「へぇ~気になる」

本「異なる組織を起源とする悪性黒色種や卵巣がん、B細胞リンパ腫などの腫瘍はIL−10 を産生する」
◆復習メモ
IL-10(インターロイキン10):
炎症反応の抑制性サイトカイン。主に2型ヘルパーT細胞(Th2)が産生する。NKT細胞や記憶型T細胞、一部の制御性T細胞、1型ヘルパーT細胞(Th1)も産生する。

大林「炎症反応を抑制するIl-10を腫瘍が産生するってこと?」
本「そう。そして樹状細胞や T 細胞の活性化を妨げる」

本「細胞表面に免疫応答を直接 抑える蛋白質を発現する腫瘍もある」
大林「PD−L 1 ですね!」
本「PD−L 1 は B 7 ファミリーの1つで活性化T細胞に発現するPD−1レセプターリガンド
リガンドligand:特定のタンパク質と特異的に結合する比較的低分子の化合物。生体分子と複合体を形成して生物学的な目的を果たす物質のことを指す。

本「腫瘍は局所の免疫応答を抑える酵素も産生しうる」
大林「なんていう酵素?」
本「インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼindoleamine 2,3-dioxygenase:IDO。これは免疫抑制作用を持つキヌレニン を作るために、必須アミノ酸の一つであるトリプトファンを分解する」
大林「名前が長いうえに説明が回りくどい!とりあえずIDOは免疫抑制作用を起こすために間接的に必要な酵素ってことかな」
本「IDOは、感染症では免疫応答と寛容のバランスを維持するために働いていると思われるが、腫瘍発育 の平衡相でも誘導されうる」
大林「腫瘍細胞に利用されてるって事か」

本「腫瘍細胞はコラーゲンのような物質を産生して 物理的なバリアを作り、免疫細胞との接触を防いでいる」
大林「そんなものまで」

今回はここまで!
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