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成人年齢引き下げで考える 親を頼れない未成年の賃貸問題

2022年4月から成人年齢が引き下げられ、選挙権、携帯電話の契約、飲酒や喫煙の可否…さまざまな分野で、成人と未成年との間にある“できること”“できないこと”が明らかとなりました。

その際、特に注目を集めたのは、18歳から保護者の同意なしに契約などができるようになったことです。それに伴い、住宅、とりわけ10代後半の子どもたちにとって最も身近な賃貸住宅においても、自分の意志で契約をする状況が今後増えていくことが予想されています。
賃貸領域での成人ができること、未成年はできないこと、未成年が部屋を借りたい場合について、今回は掘り下げてみたいと思います。


未成年の賃貸借契約 そもそも成人とはどう違う?

進学のために一人暮らしを始める、社員寮のない企業に就職する、家庭の事情で親元から離れて暮らすことになった…10代でも一人暮らしを始めることは往々にしてあります。

未成年が契約者となってお部屋を借りたい場合、成人では提出が求められない「親権者同意書」の提出を必ず求められます。
親権者同意書とは、不動産会社に提出する書類。未成年者の賃貸借保証委託契約の申込みや契約締結をすることに、契約者の親権者が異議なく同意する、ということを公的に示すための書類です。

親権者同意書の記入は、契約者の親権者や法定代理人の署名捺印が求められます。
提出を求める不動産会社によっては、未成年者が親権者を偽った記入をしないよう、実印での捺印や印鑑証明書の提出を求めることもあります。

なぜこの同意書が必要なのか、それには2つの理由があります。
1つが、未成年は法定代理人の同意を得なければならない、と民法で定められているから。

もう1つが、未成年が親権者の同意を得ずにした契約に生じる“未成年者取消権”によって、不動産会社が不利益を被ることを防ぐためです。
たとえば、もし親権者の同意なく未成年が賃貸借契約をしてしまった場合、未成年者取消権を行使すると、賃貸借契約自体がなかったものとなります。
それにより、未成年側から突如契約を破棄されたり、さらには賃料を滞納していた場合、その回収もできなくなったり、といった事態が起こりかねません。

こうしたリスクを避けるため、未成年者の契約を認めないとする不動産会社や管理会社、オーナーもいます。その場合、親権者が契約者となり、未成年者を住まわせるという契約を結ぶことで対処することも。収入のない学生が一人暮らしを始めるときなどはよくとられる手段です。

注意しないといけないのが、「保証人不要」をうたっている物件です。
連帯保証人に親権者や親族が署名する場合が多いため混同しがちですが、あくまで保証人が不要なだけであり、未成年の契約には親権者同意書は必要となります。

また、これまで例外として、未成年者でも結婚をしていれば成人とみなされ、親権者の同意なく賃貸借契約を結ぶことができました。ですが、2022年4月より女性の結婚年齢が2歳引き上げられたため、この特例はなくなり、ほとんどの場合18歳未満は親権者の同意が求められます。


成人年齢引き下げで賃貸物件の契約の仕方も変わる!?

では、成人年齢が引き下げられたことで、これまで親権者同意書が必須だった18歳、19歳が契約できるようになったのか、といえば…法律上はできるようになりました。

とはいえ、親権者同意書が不要であっても、一般的には安定した収入がある3親等以内の親族を連帯保証人とすることが条件とされるため、連帯保証人として親を頼る人が多いようです。

両親に収入がないなど連帯保証人を立てられないときには、家賃保証会社との契約があれば、賃貸借契約を結ぶことが可能になる場合があります。
ただ、家賃保証会社には審査があるため、本人に収入がない場合は審査が通りづらくなる可能性がある点には留意しましょう。


法律的にはOK けれど現状は…10代をめぐる賃貸の問題

現状、10代の未成年は親権者同意書と親や親族が連帯保証人になること、成人は親や親族が連帯保証人になることで、賃貸借契約を結ぶことができるとされています。
しかし現実的には、どちらの場合も親を連帯保証人に立てることを求められる場合がほとんどのようです。
親を連帯保証人に立てられない場合、家賃保証会社の審査も通らないことが多く、結果契約に至らないケースも少なくありません。

そこで困るのが、親を頼れない境遇の未成年たちです。
たとえば、児童養護施設や児童自立支援施設の出身者、自立援助ホーム入所者、家庭不和から非行に走り少年院にいる未成年は、親からの後ろ盾を得られないことが多々あります。
また、外国籍の親をもつ未成年も、日本国籍でないことを理由に親を連帯保証人として認められず、契約を結べないケースが起こっています。

住まい探しの難しさから住居を決められず、それがトリガーとなって、仕事に就けない、貧困に陥る、社会的な生活が送れない…と負のスパイラルに陥る傾向が強くなってしまうのです。

こうした状況を改善すべく、有志のNPOがケアリーバー専用のシェアハウスを運営したり、支援団体が所有する物件に格安で住まわせたりといった手段が取られていますが、全国規模ではまだまだ少ないと言わざるを得ません。
そして何よりそういった手段は、自分らしい暮らしを望んで選ぶ住まいとは言えないのではないでしょうか。


おわりに

自分がしたい暮らし、ありのままの自分でいられる暮らしを叶えることに賛同する方は多い一方、社会の仕組みや慣例にはなかなか変化が見られません。
未成年や成人の間でも、親の庇護を受けられることが絶対として成り立っている現状は、庇護を受けられない境遇にある人たちが安定した住まいを整えられない、といった問題をはらんでいます。
私たちが“当たり前”と感じている慣習が、時に子どもの生きづらさの原因になっていることに、目を向けてみませんか?


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