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わたしの思う「素敵な人」

「素敵な人」をテーマにエッセイを書く、というお題をいただいた。

ただ、私は「素敵」という言葉を頻繁に使うので、今その定義に困っている。

【素敵】[形動]...自分の気持ちに合っていて、心を引かれるさま。非常にすぐれているさま。程度がはなはだしいさま

引用:goo国語辞書

何かにつけて「素敵です」と言って「素敵だった」などと書いてきた。とても便利な言葉で“素敵な” 言葉だと改めて思うけど、本当に「非常にすぐれている」ときに使っているだろうか。

「言葉の企画」初回の講座で阿部広太郎さんが「素敵禁止!」と言った。
その意味としては「使っても良いけど、便利な言葉だからその奥にどんな気持ちがあるのかを考えて使うようクセ付けしよう」ということだ。

意識した「素敵」のその深くにもっと言い表せる、無意識の「◯◯◯◯」がないかな、と探してる感じです。ほかにも「いいね」は「なにがいいの?」だし、「素晴らしい」とかも「どのあたりが?」だね。耳ざわりのいい言葉を掘り下げれば、本当の生の気持ちに出会えるはず。

―阿部広太郎さん「言葉の企画」講義より

阿部さんはいつも今の自分にぴったりな言葉をくれる。「私はその奥にある感情を考えずに使っているなぁ」と少し反省した。

だから、こうして「素敵な人」について書こうとした時、素敵ストックが多すぎてその定義がぼやける。でも、振り返ってみると自分が感じた沢山の素敵の中でもめったに訪れない心が震えるような素敵があると気づいた。

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では、ごく稀に感じる心が震えるような素敵とはどんな人が当てはまるのだろう?思い出して書けるものでもないので、毎日つけている日記の中から「素敵」というワードを検索してピックアップしてみた。

これは基本的に人には見せない、自分のために書いている備忘録的な日記なので、日々無意識に使っている「素敵」が発掘できるのではないかと思い、ソートをかけてみる。

約1年前から書きはじめた日記の中で「素敵」と書いた日は20日。「ステキ」が17日あった。(思ったより少なかった)
月平均3回、書き留めておきたい「素敵」と出会っている。

この中には空間や雰囲気、モノ・コトが含まれるので、その中でも「人」に対して書いた「素敵」をひとつだけ紹介する。


素敵な人、るきさん

るきさんは都内で暮らす30代(推定)くらいの独身女性だ。

漫画家・高野文子さんが描く『るきさん』(ちくま文庫)。雑誌『Hanako』で1988年〜1992年まで連載されていたコミックを一冊にまとめ、1993年に文庫として発売された。

1988年のバブル真っ只中で浮かれている日本。ブランド品を身に纏い、煌びやかな生活を送る女性たちとはどこか違う、毎日をマイペースに、楽しく、気楽に生きている主人公・るきさん。

この本と出会ったのは、池袋にある「梟書茶房」。中身が見えないシークレット本・ふくろう文庫を扱うこの店では、パッケージに書いてある推薦文だけを頼りに本を選ぶ。

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私はこの推薦文に惹かれて手に取った。

自分らしい生き方、自分のやりたいことってなんだろう、何が幸せなんだろう、と改めて考えないとわからないくらい、忙しない毎日を過ごしているかもしれません。立ち止まって、肩の力を抜いて…とありがちな方法を試してみるものいいかもしれないけれど、この本を読むのもいいと思います。華々しくも、オシャレでもない、素の自分が見つけられそうです。

ー引用:ふくろう文庫・推薦文より


私は当時に日記をこう綴っていた。

池袋にある「ふくろう文庫」で中身の見えないシークレット本を買ってみた。小説かな?それともエッセイが来るかな?と思っていたので、開けた瞬間、にやけた。漫画だった。主人公はるきさん。自分らしく生きる女性だ。 
推薦文にあった「素の自分」というワードに惹かれて選んだ一冊。それは素敵な女性の日常を描いた漫画だった。今のふわふわとした自分にとって、ぴったりの本だった。私が知らない時代の「Hanako」で連載されていた漫画。こうして出合わせてくれてありがとう。

自分らしく生きる女性、るきさん

るきさんは人目をあまり気にしない

るきさんは自分の気持ちに素直に生きている


漫画で描かれる日常は決して派手なものではなく、いたって平凡だ。それでも、彼女はいつも生き生きとしていて、幸せそうに映る。

そこには周りの流れに左右されず自分の芯を強く持っていること、自分の気持ちに素直に行動する彼女の生き方がある。単純なことだけど、実践するとなると結構勇気がいるものだ。

私もあんな風に生きられたら、もっと人生が楽しくなるだろうな、なんて思いながら読んだ。私はるきさんの生き方に憧れているのだと思う。

「素敵だな」と思う人はたくさんいる。

「あんな風になりたい」と思う人はひと握りだ。

るきさんは漫画の中の人だけど、実際に私の周りにたくさんいる「素敵な人」の中で「あんな風になりたい」と目標にしている人が3人いる。その人たちは偶然にも、るきさんの姿が重なって見えるときがある。

いつだって自分の気持ちに素直に生きていて、嘘がなく、芯が通っている。だからこそ、上っ面なやりとりはなくて、いつも大切にしたい言葉をくれる。私は会うたびに胸がいっぱいになる。

私にとって最上級の「素敵な人」は憧れで、目標の人。

「素敵な人」…。私もいつかこの言葉が似合う女性になれたらいいな、と思いながらこのエッセイを終わります。


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