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米国人記者と港へ向かう(サミット2016[10])

202305190508 「米国人記者と港へ向かう」
2016年サミットのお話(その10)

 その大丈夫かお前は?米国人記者と私は、話をしながら近鉄(きんてつ)鳥羽(とば)駅から民宿のある答志(とうし)島へ行く定期船の乗り場まで一緒に歩き出した。ところが私は鳥羽駅周辺を歩いたことはあまりなくて土地勘がない。
「ええっとこっちの方角かな?」
と英語と日本語でブツブツつぶやきながら定期船乗り場(港)を目指した。ただ、実際には『船はこちらです』案内板が所々に出ているので港まで迷わずに行けた。
 道すがら一応簡単に自分のfirst nameを互いに言いあって挨拶をした後は全然話が進まない。彼は遠く米国本土から飛行機に乗って半日ががりで来て疲れている上に、サミット取材にあまり乗り気ではなかったのかも知れない。
 定期船の港は近代的ビルで目立っていた。が、当然のことながら(当然なのも困るけど)彼は乗り場の案内が読めない。仕方なく私が簡単に英訳する。
「ええと、次の答志島の船は◯時◯分に出ます。チケットを買う必要があるのですが米ドルではなくて日本円はお持ちですか?」
とかなんとか…

 定期船乗り場の待合室は閑散としていた。そもそもサミット期間中は『一般市民は観光を控えろ』というお上のお達しがあったのだ(*1)。それに答志島はそれほどメジャーな観光地ではない(良い所だと思うけど行ったことがないのでよく知らない)。
 待合室のTVからはサミット参加国首脳の来日の様子が流れている。そのうちの一人の映像を観(み)て私が
「あ、トルドーさんだ」
と日本語で思わず口にだしたら、その記者の男は(お前アホか?)という表情をありありと見
せて
「David Cameron!」
と訂正してきた。
 その通りです。はい。私は言い間違えただけです。ちなみにそのカナダ首相、ジャスティン・トルドーは、サミット開催の前日(*2)に東京から新幹線で名古屋入りし、深夜の伊勢自動車道(高速道路)を厳重なパトカーの警護付きで爆走し鳥羽市内の超高級スノッブ旅館に行き奥さんと二人ラブラブで前泊している。新婚旅行かい!

 さて、件の男性米国人記者は一人で船に乗れるかな? としばらく様子を見ていたが、ノートパソコンに夢中の彼は『もう要らないから帰れよ』感むき出しだったので、私は一人で鳥羽駅まで戻ることにした。彼は最後まで愛想が良くなかった。

 夕暮れ時にトボトボ歩いて駅の観光案内所(ボランティア詰所)に戻ったら、既に案内所の電気は暗くスタッフは粗方(あらかた)帰ってしまっていて、その日、ボランティアを指揮する鳥羽市観光協会の男が一人ポツンと待っているだけだった。彼に簡単に報告して帰ることにしたが、結果として、この日のデューティーとしてまともな仕事をしたのは私だけだった、と自信を持って言える。唯一の救いは、その日に支給された海の幸弁当がとても美味かったことだけだった。
 しかし、鳥羽駅では役に立たない奴ばっかりだったな。

(*1)各地の道路規制、近鉄電車の鵜方駅ー賢島駅の運行中止、パルケエスパーニャの休園など。
(*2)下記URLは2020年7月25日確認
https://www.afpbb.com/articles/-/3088213

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