中学から新しい仕事作った。天職だった。
私は小学生のころから、好きな本に出会うと、必ず作家にファンレターを出していた。
たくさんファンレターを出した中で、あさのあつこ先生は直筆のお返事をくれて、感動した。
きちんと私の手紙をふまえたお返事がそこにはあった。
思えば私は子供のころから、疑い深いとか、警戒心が強いとか言われていた。
あさのあつこ先生にお手紙を出した際、自分から返事がほしい旨を書いて、返信用封筒もつけて送ったくせに、そのお返事の信ぴょう性についてずっと考えていた。
この手紙を書いた人が私の手紙を読んだことは間違いない。
でもこの手紙を書いた人があさのあつこ先生のふりをしている可能性は否めない。
せっかく大好きな作家さんからもらったお手紙なのだから、素直に喜べばいいものを、私はそんなふうに勘ぐっていた。
そしてファンレターお返事を書くゴーストライターがいたとしたら、それはすごく素敵な存在だな、と思った。
もちろん作家先生ご本人がお返事を書ければそれにこしたことはないのだけど、それが難しい場合、先生が認めたゴーストライターであれば、ゴーストライターが書いてくれたお手紙でも、ファンにとっては宝物になる。
作家先生が書く小説は、ご本人が書かないと通用しないレベルだろう。
でもファン相手のお返事なら、ゴーストライターが先生の直筆を真似して、それらしいことを書いてくれるだけで、ファンの生きる励みになる。
私の心はいつしか、ゴーストライターに惹かれるようになっていた。
そして中学生のとき、「ファンレターへのお返事、書きます」というサービスをネットで販売した。
そんな職種は見たことがなかったけれど、思いつきにまかせて、出品してみたのだ。
「出版業界で20年勤めた一流編集者が、あなたに届いたファンレターやDMをしっかりと読み、心を込めてお返事を書きます」
当時私は14年しか生きていなかったが、ハンドルネームを作って、「売れそうなプロフィール作り」を楽しんだ。
ハンドルネームは、ゴスラー。
単純にゴーストライターとして覚えてもらいやすいペンネームを考えたのだが、調べてみたら、ゴスラーというのはドイツにある「魔女伝説の残る街の名前」でもあった。
めちゃくちゃいい名前じゃん、と私は張り切って、中学生の分際でどんどん仕事した。
【ゴスラー。ライター歴20年。早稲田大学文学部卒業。大手出版社勤務を経て、フリーライターに転身】
中学生の時に書いたこのプロフィールを、ライター歴30年に変えて、今も使っている。
ほぼ30年たっているけれど、プロフィールのライター歴は10年しかプラスされていない。
一度契約した相手は、いちいちゴスラーのプロフィールなんて見直さないし、もしどこかで見つけて違和感を覚えたとしても、「まあプロフィールを更新していないのだろう」としか考えないのだと思う。
早稲田大学の卒業証書を見せてほしいと言われることもない。
たまに取引相手に「私も早稲田卒です」と言われることがあるけれど、それはとても好意的な言い方をされるので、「それはそれは! ご縁がありますね!」みたいな返事で済むのだ。
女性に対して年齢がわかる質問をずけずけしてくる人は、今のところいない。
しかも仕事上のやりとりがある場合は、相手も「納期、値段、その他サービス詳細」が知りたいのであって、大学時代の思い出話を持ち出そうとは思わないのだろう。
ゴスラーの仕事は、想像以上に需要があった。
高校に入ると、私は「ブログのゴーストライターをします。女子受けのいい男性ブログづくりを、お任せください」という活動も始めた。
バンドマンや男性アイドルの多くは、ブログ更新なんて興味ないけれど、ファンサービスとして嫌々ブログを書いている。
本当はゲームの話を書きたいけれど、女の子にとってゲームの話ばかりのブログはつまらないだろう、でも自分は他に何も書くことを思いつかない。
そんな男性が多いのではないかと予想したら、まさに大当たりだった。
値段のつけ方も「このぐらいの金額が書いてあるとそれっぽいかな」というイメージで提示していき、
気づいたら高校に通いながらも、父の扶養を抜けたほうが税金的に得、というくらいに稼いでいた。
「みんな元気?俺は元気よ。撮影の休憩時間に、桜撮った。みんなの地域はどう?桜咲いた?散った?どんどんコメくれ!(桜の写真添付)
みんなのコメント読みながら、わーファンって遠い地域にもたくさんいるし、都内にもたくさんいるんだなーって思えるの、かなり嬉しいから。
地方住みのみんなも、桜の開花状況どんどん自慢してな!」
こんなテイストのブログを大量生産する仕事。
ポイントはテキトーに、力抜いて書くこと。
それが私のやり方で、きっと私の天職なんだ。
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