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愛の妙薬 2月9日~365日の香水

最後の当主の最後のメッセージ
なぜ、この香りが世に出たのだろう。
調香したジャンポールゲランはゲラン家の四代目にして最後の当主となった。
アクアアレゴリアシリーズやゲランを離れてからのクリエイションもあり、ゲラン家がLVMH傘下になった後も創作活動は続いてる。
けれど、私には、これが4代目の覚悟を持ったお別れの創作に感じられてならない。
ミレニアムの年、2000年に出た「愛の妙薬」。
さまざまな芸術にインスパイアされて香水という表現にしてきたゲラン家だから、これもオペラが少なからず背景にあるのかもしれない。
創作の環境が激減する中で、継承してきた香水は芸術という域での仕事、ロマン、纏う人を美しく魅せる、そういうエッセンスを投影する最後の機会として当主は創作したのではないだろうか。
なぜなら、とてもゲラン的な私にとっては最後の香りだからだ。
あらためて、ジャンポールゲランの愛の世界の深淵に触れられることの希少さを思う。欠かせないゲルリナード(ゲランらしさ)を明確に感じ取れる。

philtre d’amour/guerlain/2000(フィルトゥールダムール、愛の妙薬)
最後のゲランらしさをずっと強調してきたけれど、フローラルシプレーのこの香りはベルガモットよりプチグレインのビターが勝り、シプレーも既にシン・シプレー(勝手に今名付けた)にもシフトしつつある。
シプレーとは1917年にフランソワコティが誕生させたノートであり、その伝統的な香調は燻ったような色濃い感覚、シングルモルトウイスキーのような風合い。これを、トーンをあげてウイスキー主体のカクテルにしたような香調がシン・シプレーと私は考えていて、実際2000年代以降、シプレーはこちらにシフトしている。
それでも奥底に潜む重厚感や熟成感は健在。
非常にシンプルでありながら、主張の強い香り。
ミドルノートからその真髄を出してくる。

愛の妙薬
バスク地方を舞台にした後味の良いラブコメ的なオペラを私はバルセロナのリセウ劇場で観た。
一番聴きたかった「人知れぬ涙」は時差ボケの影響で眠ってしまった。
思い人はである女性が自分を思っていたことを知り人知れず涙を流す主人公のアリアだ。
この現代はイタリア語で「L'elisir D'amore」で「elisr」というのは特効薬や万能薬を示す言葉らしい。一方で香水のネーミングになってるフランス語の「philtre」は薬の意味なので、このNOTEに「愛の妙薬」とタイトルを付けたのは私の意訳に過ぎない。この香水がオペラに関連しているとはゲラン社の公式の記載にもない。
私の中ではこの薬瓶のようなボトルに入った香りは妙薬という名にふさわしいように思えてるだけだ。ここには、調香師の「人知れぬ涙」が含まれているように思えるのだ。
時代は変わり経営方針は変わり、市場は変わった。
それでも、ゲランらしさは愛されている。
そんな確信を、4代目はこの作品に潜ませたのではないか。
私自身も愛用していて、もうこの妙薬は残り半分くらいになってしまった。

香り、思い、呼吸。

2月9日がお誕生日の方、記念日の方おめでとうございます。


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