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《サス経》 ネイチャーポジティブに貢献する企業になるには

 今回は「企業と生物多様性」にご興味をお持ちの方向けのちょっと専門的な話題となりますが、この分野に興味がある方には、非常に重要な情報になるはずです。また、もし生物多様性は直接の担当でなくても、この課題についての世界の状況を垣間見るのには良い機会になるでしょう。そういう興味のある方もぜひお読みください。

生物多様性の情報開示はまったなし

 企業で生物多様性のご担当の方であれば、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)への対応準備で苦労なさっている方も多いと思います。150ページにわたる英文の最終提言書を読むだけでも大変ですが、さらにそれを読み込んで、必要な分析作業の膨大さに気づいてクラクラしている方も多いことでしょう。しかし、これは今や企業にとって、特に上場企業にとっては無視できないものです。単に情報開示が求められているというだけではなく、自社の経営変革のための資料としても重要ですので、頑張って取り組むしかありません。

 それ以外にもGRIやCDPなど、さらには欧州ではCSRDなど、生物多様性に関して様々な情報開示の準備が進められています。ただ幸いなことに、これらはいずれも同じ方向を向いて、ほぼ同じアプローチで自社のバリューチェーンを分析し、そして情報を開示することを求めています。ですので、どれか一つをしっかり理解すれば、他のものも一気に見通しが良くなるでしょう。

 そうは言ってもTNFDもSBTNもCSRDも、どの一つでも全体像を理解するのが大変じゃないか。そう嘆かれている方に朗報があります。

ネイチャーポジティブ戦略の作り方

 先週11月9日に企業イニシアティブの集まりであるビジネス・フォー・ネイチャー(BfN)が、The Nature Stratgey Handbook”(邦題「自然復興戦略ハンドブック」)という冊子を出しました(タイトル写真はその表紙)。この10ページ強のハンドブックが、ネイチャーポジティブに貢献するために企業はこれからどうしたら良いか、実にコンパクトにまとめているのです。

 嬉しいことに最初から日本語化されていて、中身は実質12ページほどですから、30分もあれば目を通すことができるでしょう。内容的には、WBCSDの「ネイチャー・ポジティブへのロードマップ」に基づき、TNFD、 CSRD、SBTN、NA100のいずれも意識したという、心強い構成です。なので、TNFDの情報開示は言うに及ばず、ネイチャーポジティブが求められる時代の指南書としてぜひご一読をお勧めします

 また、既にTNFDに本格的に取り組んでいるという企業の担当者の方にとっては、今行っている分析で抜け漏れはないか、独りよがりなものになっていないか、それをチェックするのにも最適です。なぜなら、このハンドブックは情報開示を行うにあたって必要なことを質問形式でチェックする形になっているからです。これをチェックリストとして活用すれば、今やっていることに抜け漏れや誤りがないかが簡単に確認できるというわけです。

 このハンドブックは、そもそもはBfNが行なっている”It’s Now for Nature(今こそ自然復興のために)”というグローバルキャンペーンの一環として用意されたものです。このキャンペーンは、企業に対して自然の損失を逆転させるために重要な行動を取り、正の影響が負の影響を上回り、また公平でネイチャーポジティブな世界に貢献するような行動を求めるものですが、そのために必要なプロセスをACT-D(評価・コミット・変革ー開示)と整理し、それに沿った戦略を立て、BfN提出することを呼びかけています。

戦略の内容で企業が評価される時代に

 ちなみに提出された戦略に対しては、それがACT-Dのプロセスをきちん踏まえたものであるかをBfNがチェックし、フィードバックを行うそうです。そしてしっかりと練られた戦略は来年のCOP16の際にまとめて発表するとしています。そこに戦略が並ぶかどうかで、その企業がネイチャーポジティブに真剣に取り組んでいるかどうかが評価されることになるかもしれません。

 また今回BfNは、世界経済フォーラム、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)と共に、12のセクター向けにガイダンスも発行しています。もしあなたの会社がこの12セクターに該当する場合には、それぞれのガイダンスを参照すると、自社が何をすべきか、独自に分析をしなくても概略を掴むことができるでしょう。

企業がやるべきことはもう十分に整理されている

 生物多様性について何をしたら良いかわからないとおっしゃる方が今だ多いのですが、やるべきことは実はもうここまで整理されているのです。そしてもちろんこうした考え方やガイダンスに沿って、着実に取り組みを進めている企業が海外にはいくつもあります。

 随分と差をつけられてしまったなと感じるかもしれませんが、逆にここまで整備してくれているのですから、後からキャッチアップするのはずっと容易なはずです。むしろ本当の勝負はこれからで、このプロセスに沿って行動するかどうかによって、今後の競争力、そしてそれを含めた企業としての持続可能性には大きな差が付くと言っていいでしょう。

 そしてもう一つ重要なことは、これが世界が考える「ネイチャーポジティブへの貢献」のための標準的なアプローチになる可能性が高いということです。もしかすると、自社で所有したり管理する土地が「自然共生サイト」に認定されれば、それである程度の「貢献」を果たしたと考えている方もいらっしゃるかもしれません。けれども残念ながら、世の中はもっと厳密な戦略と積極的な行動を企業に求めているようです。

 サステナブル経営アドバイザー 足立直樹

※この記事は、株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)479(2023年11月15日発行)からの転載です。

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