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《サス経》 アジサイと言えば…

 このシーズンは、街中のいたるところでアジサイの花を見かけます。最近はいろいろな園芸品種が多く流通しており、色だけでなく、形のバラエティも一層多様になったような気がします。もっともポピュラーなホンアジサイは、ガクアジサイという日本原産のアジサイが品種改良されたものです。それが海外に渡ってさらに品種改良を受け、最近はそれが逆輸入されているたようです。

 ところで、この時期、イラストなどでアジサイと一緒によく描かれるのがカタツムリです。ところがこちらの方は、最近すっかり見かけなくなってしまったのではないでしょうか。私も最近あまり見ておらず、今住んでいる京都に関して言えば、5年前に越して来てから市街地ではほとんど見た覚えがありません。

 市街地でカタツムリがを見かけなくなったというというのは、全国的な傾向のようです。「でんでんむしむしかたつむり」という子どもの歌がありますが、子どもたちがカタツムリを見たことがなくて、歌詞の意味がまったく分かってもらえないという話も聞いたことがあります。もしかしたら子どもたちどころか、若い保育士の方々も、あまりよくカタツムリの行動を知らないかもしれません。

カタツムリが減った理由

 カタツムリが都市部で急速に減ってしまったのにはもちろん理由があります。もともとこの時期に見かけることが多いことからも想像ができると思いますが、カタツムリは湿ったところが好きな生き物です。都市化が進み、特に地面がアスファルトで覆われるようになると、カタツムリにはとても生きにくくなってしまいます。そしてカタツムリはあの通りゆっくりしか移動できません。熱く乾燥した道路を横断するのが苦手な上に車に轢かれてしまうリスクもあります。

 このように現在の都市環境は、カタツムリにとってはとても住みにくいものになっており、見かけなくなったのも当然のことなのです。

 いや、最近はビルの周りに緑を増やしたり、都市部でも自然を復活させようという動きがあるのではないか。もっと緑を増やしたらまたカタツムリもまた増えてくれるのでは? そう願いたいところではあるのですが、それでもカタツムリはなかなか増えないでしょう。というのは、前述のようにカタツムリは移動能力があまり高くなく、しかも都市部は道路で分断されています。たとえ新たな生息の好適地が創出されたとしても、既存の生息地からそこにカタツムリが移動できる可能性はとても低いのです。

 したがって、カタツムリが生息しているのは、都市の中であれば古くからずっと緑が残されてきた古い公園やお屋敷などのような場所に限られてしまうのです。カタツムリは非常に環境の変化に弱い生物であるといってよいでしょう。

カタツムリがいなくなっても困らない?

 家の周りでカタツムリを見かけることがなくなっても、私たちがすぐに困ることはないかもしれません(カタツムリも生態系の中でいろいろな役割を担っているははずですが、私たちはまだそれを正確には理解できていません)。けれどももう一世代もしたら、アジサイとカタツムリという梅雨の時期を代表する生き物の組み合わせを、人々は理解できなくなってしまうことでしょう。

 生物多様性条約COP15で採択された2030年に向けての世界目標(GBF)では、都市の生物多様性を再生することが行動目標の一つになっています。もちろんそれは都市の気候を和らげたり、洪水を防ぐためのグリーンインフラとしての機能などを期待しているわけですが、単純に生き物や自然と接する機会を増やすことが、メンタルヘルスを含め、人の健康や幸福度を高めることに役立つという期待もあります。

開発が進めば進むほど自然が増える制度

 ちなみにイギリス政府は2月、今年11月以降に建設される新しい住宅、商業施設、インフラの開発においては、開発する土地よりも10%多くの生態系を保護したり、再生することを義務化する方針を発表しました。すなわち、開発が進めば進むほど、自然が増えるということです。

 イギリスがなぜここまでに自然を重視する政策を取るのか。きっとそれは、自然が持つ本質的価値に気づいたからではないでしょうか。わずかこの数十年で私たちは自然を大きく失い、また自然から乖離した毎日を過ごすようなってしまいましたが、世界的にはその流れが逆転し始めたようにも思います。日本でもそうした動きが始まることを期待したいと思います。

 サステナブル経営アドバイザー 足立直樹

株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)469(2023年6月18日発行)からの転載です。


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