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《サス経》 再生の時代が始まる?

 こんにちは、レスポンスアビリティの足立です。土曜日が新月でしたので、これに合わせて旬のサステナビリティの話題をお届けします。それから前回の満月は5月6日でちょうどゴールデンウィーク中でしたのでお休みさせていただきました。事後のご報告となりましたことをお詫びいたします。

 さて、そのゴールデンウィークですが、どのようにお過ごしになったでしょうか? 私はその直後にローマで開催されたシンポジウムに参加する必要があったので、少し早めに日本を出発し、フィレンツェを四半世紀ぶりに訪ね、その後、ローマへ入りました。3年ぶりの海外出張でしたが、どこも大混雑。特にフィレンツェは、以前とは比べものにならないほどの混雑ぶりで驚きました。

ルネサンスはペストの後に生まれた

 花の都フィレンツェは、ルネサンスが生まれた街として有名です。大富豪だった名門貴族メディチ家の加護を受けたレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエロなどの芸術家が同時代に活躍したことが有名ですが、実はそれより100年ほど前に街はペスト(黒死病)に襲われ大変な惨状となっています。ペストは欧州全体でも人口の3分の1から4分の1を死に至らせたと言われますが、フィレンツェは特にひどく影響を受けており、人口の7、8割が亡くなったといいます。

 この大パンデミックの結果、当時の社会に圧倒的な影響力をもっていたキリスト教の権威は地に落ち、また農奴もペストで激減してしまったため、残された人々を大切にせざるを得なくなり、大きく社会が変わったと言われます。ルネサンスが誕生したのも、こうした変化と無縁ではなさそうです。

 ところでルネサンス(Renaissance)とは「再生」や「復活」を意味するフランス語ですが、それではこの時代は何を再生したのかといえば、キリスト教が支配する以前のギリシャやローマの古典時代の文化、すなわち人間を中心とし、その美しさを写実的に描写し讃える文化です。ボッティチェッリの「春」や「ヴィーナスの誕生」などは、テーマ的にも、表現的にも、まさに人間讃歌の文化の再生を象徴しているように感じました。もっと単純に言えば、その直前の中世の作品群と比べて、圧倒的に生き生きしていて魅力的です。

コロナの後に何を生み出すのか?

 ところで新型コロナは、中世のペストほどでは無いにしても、多くの被害者を出し、また私たちの社会システムの脆弱性を曝け出したという点において、もしかすると後世の人が振り返って見れば、ペストに近い意味があったということになるかもしれません、実際、コロナの間に、これまでの働き方や生き方に疑問を感じた方も少なくないでしょう。そして問題は、この後に、私たちがどのような社会や文化を生み出すかです。

 リジェネレート(regenerate)という言葉が最近よく聞かれるようになったのも、もしかすると偶然ではないのかもしれません。リジェネレートも日本語にすれば同じ「再生」ですが、これはもちろん過去の文化を再生するということではなく、自然の再生、そして、自然と調和したやり方の再生です。

 ルネサンスを経て、西洋では要素還元主義の近代科学が発達し、物事をそれを構成する要素に分解していくことで複雑な全体像を理解したり再構築できるという考え方が卓越しました。そして実際、科学技術は爆発的ともいえる進化を果たし、私たちの生活も大きく変化したわけです。しかし、ここで再び、工業的、あるいは機械論的なアプローチ一辺倒ではなく、自然を重視し、それを再生しようという発想が出てきたことはとても興味深いと思います。

なぜリジェネレートなのか? 何を再生するのか?

 けれども私は、リジェネレートが注目されるのは単なる懐古主義ではもちろんないし、オーバーシュートの揺り戻しというだけでもないと思います。むしろこれまでの未熟な科学技術では理解することが困難であったあまりに複雑な自然のシステムを、今ならもっと深く理解できるようになりつつあることの結果なのではないかと思うのです。したがって、単純に昔のやり方に戻るのではなく、無機的なものと有機的なものを融合させ、その先にもっと高度な文明を築く時代がスタートしたのだと期待したいと思います。

 その中で私たち一人ひとりや企業は具体的にどうしたらいいのでしょうか? もちろんまだ誰も正解を知らないわけですが、まずは自然の仕組みを再考してそこから学び、私たちが破壊してしまった自然システムを再生し、そして自然の仕組みを使って問題を解決しようという姿勢を持つことが何より重要なのではないかと思います。

ネイチャーポジティブエコノミーもここから

 例えば今まで古臭いと多くの人が見向きもしなくなった一次産業、これを現代的な視点でもう一度見直してみたらどうでしょうか。そこには今までと全く異なる可能性が出てくるかもしれません。そしてそれがネイチャーポジティブエコノミーにつながっていくのではないかと期待しています。

 自然の仕組みを自分たちのビジネスにどのように生かすことができるのか。この機会にぜひ考えてみていただきたいと思います。

 サステナブル経営アドバイザー 足立直樹

株式会社レスポンスアビリティのメールマガジン「サステナブル経営通信」(サス経)467(2023年5月22日発行)からの転載です。

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