『葬式同窓会』

乾ルカさんの作品。白麗高校3部作の3番目の話である。

高校時代の担任の葬式で久しぶりに再会したクラスのメンバー。図書館司書の優菜、大学院生の彩海、作家志望の華、公務員の一木、サラリーマンの望月。

ある日の授業で担任が激怒した理由、山中での出来事、スケートペアの金メダルなどさまざまな要素が絡み合っていく。


優菜と華の口論したときは、かなりヒヤヒヤした。加害者と被害者で過去の記憶の認識も変わっていることがよくわかった。

華と望月の生配信は、良くなかったと思う。

水野先生はそこまで怒らなくてもいいのではないかと感じた。


印象に残っている文

ここに座っていい? だって。うちらとお昼休みを過ごしたいみたい。入学式から一週間くらい、一緒にお弁当食べただけなのに、仲間面するんだ。友達だって勘違いしちゃった? 違うんだけど。

華の「私たちって、今はいたって普通の関係だよね」と言わんばかりの態度を目の前にするたび、優菜の胸には言語化できないわだかまりがうねる。

眼鏡かけてると賢そうで、外すとかっこよくて、笑うと可愛いのハイブリッド。

高校生になっても、こんなくだらないことで。けれども、くだらないことで最下層に突き落とされるのも、学校生活なのだ。

本当にどうしてだろう。どうしてあいつらは女の子のことで頭がいっぱいなんだ? 隙あらばセックスのことを話すんだ? 女の子もだ。どうして男子を気にするんだ? そもそも、なんで誰かを好きになる? トラック二十周もすれば、疲れてそんなことはどうでもよくなるのに。俺はそんなことよりももっと面白いことを考えたい。例えば世界には色がいくつあるのか、とか。朝日や夕日を受けた山の頂は、どうしてあれほど綺麗に見えるのか、とか。どんな悪人でも、空にかかる虹を見たら美しいと思うんじゃないか、とか。

でも、周りの人間は言うのだ。どうして水の中で暮らさないの? 水の中の方が綺麗で楽しいのに。本当は水の中で暮らしたいんでしょ? かわいそう、水中のよさを知らないなんて。一度試してみたら? 水中を知ったら水中の方がよくなるよ。水の中がいいと思わないのはおかしい。子供だ、未熟だ、異常だ、病気だ、だからおまえはダメなんだーー。水の中で生きない人間なんているわけがないのだからと。

誰も好きにならない自分は、ずっと一人だ。その一人だけの世界を、そんなのおかしい、そんな世界などあるわけないと否定されるのは、すなわち、おまえなんていないと言われているのと同義だ。

「米国において成熟した人間とは、『自分の考えを持ち、それを相手にも分かるように伝えられる人』のことなんだ。一方的に論破、じゃなくてね。相手と同じ意見じゃなくたっていい。違ってて当然。だから伝え合う。よって教育の場では、アウトプットを重視する」

「もしもヒグマに襲われたら、どうすればいいかっての、これは叔父から教えてもらったんだけど」彼は両手の指を組み合わせ、首の後ろに当てた。「こうやって首を防御しながら、腹を下にして地面に伏せる」

だから、卒業式じゃない。今日は葬式だ。

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