『銀座の紙ひこうき』


はらだみずきさんの作品。
『サッカーの神様をさがして』のように、主人公が過去を回想する展開となっている。
紙に関する専門知識が多く書かれていて、初めて知ったことが多かった。主人公の航樹の周りの人も魅力的な人物ばかりで、一緒に飲みに行きたい。航樹が退職するときに、読んでいてとても寂しくなった。
銀座はあまり行ったことがないので、作品に出てくる場所に行ってみたい。

印象に残っている文

黒縁メガネの国井は、体育会系の学生が就職して数年経ち、ゆるんでしまいましたとでもいうような体形で、少々くたびれて見えた。

記憶というのは不思議なものだ。紙の寸法のように何度もくり返し、努力して頭に刻み込まなければ覚えられないものもあれば、努力などせずとも、いつまでも残ってしまう記憶もある。

「ーーいいか、本は紙でできてるんだ」

「だったら、それでいいんじゃないか。それこそ、本は書店で買えばいいわけだし、小説だって書きたけりゃ書けばいいんだ」

「ラーメン屋にでもなろうかなんてな」そう話していた卸商営業部の志村も同じだが、やめるやめると口にする人間ほど、実際には会社をやめない気がした。やめると言えば、だれかに引き留められるとでも思っているようにさえ感じる。やめるなら、黙ってさっさとやめればいいのだ。

結局、やめる理由は、会社にはない。ーー自分自身の問題なのだ。自分がどんなふうに生きたいのか。なにをやりたいのか。なにを大切にしたいのか。問題は、そのことなのだ。それを自分でとことん考え、自ら決断しない者に、真にやりがいのある仕事などつかめるわけがない。

本音で言い合える同期というのは、ライバルとはいえ、いいものだな、と航樹はようやく思うことができた。

「会社というのは多くの場合、一度でもやめると口にした者を信用しない。だからその後は重用されない。つまり口に出したが最後、あともどりできないってことさ」

不思議なもので、人生はめぐりめぐって、つながっていく。どうやらそういうふうにできているらしい。そしてときには、愚直ながらあきらめない者に味方をするようだ。

なにかにこだわりを持ち、生き続けること。それはいつの時代であっても、ひとつの方角を明確に照らし出す、星の代わりになるような気がする。

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