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ADHD当事者が語る:不注意vs集中力

最新の研究論文を読んで、理解し、まとめることはできるが、取り扱い説明書を読むことができない

手先が器用でフラワーリースやファブリックパネルを作ったりすることが大好きなのに、洗濯物を畳んでしまうことができない

人と交流するのが大好きで、おしゃべり好きなのに、LINEメッセージやメールの返答するのがものすごく苦手

親の意向で中学受験し、全く興味のない女子中高一貫に通うも、校風に合わず、先生に嫌われ、叱られてばっかり。特に英語が大嫌いで、学年最下位状態だったので、親が見かねて塾に入れるも、授業料や教材代をちょろまかし、大学も全落ち。かろうじて短大に進学したが、結婚してから、どうしても心理学を勉強したくて、夫の大反対を押し切り、独学で早稲田に入学。双子の母になってから、特別支援教育と応用行動分析に興味を持ち、これまた夫の大反対を押し切り、アメリカの大学院でこれらを学び、修士号を取得した。
要は、自分の興味関心のないことは、どう頑張ってもできず、自分の興味関心のあることは、他人に反対されてもやってしまう。

これらは私の生活の一部であり、私の生き方です。これまで自分が変わり者のせいだと思っていたのですが、この特徴もどうやらADHDからきているものだったらしいのです。

このようなフォーマンスの一貫性のなさを「状況変動(Situational Valiability)」と言い、ADHDの側面の1つです。

ジェットブルー航空の創業者であるデイビッド・ニールマンも、
「私は、20機の航空機を計画する方が、電気代を払うよりも簡単だ」
と言っています。

なぜこのような矛盾が生じるのか?

ADHDの有無にかかわらず、誰もがある程度、こうした特性を持っていると思います。しかし、ADHDの場合は非常に大きな影響を受けます。

ADHDにも長所と短所がありますが、そのどちらが発揮されるかは、状況や文脈によって異なります。

一般に、ADHDの人は、作業や活動が自分にとって関心の高い時、活力を感じ、やる気を出し、容易に夢中になり、非常に高いレベルのパフォーマンスを発揮することができます。

しかし、その作業や活動が非常に重要かつ単純で短いものであっても、関心が低いものであれば、直感的に苦痛に感じ、ほとんど取り組まなくなります。

これはなぜなのでしょうか?

ADHDのやる気と脳機能

人間の脳は、神経細胞同士がコミュニケーションをするためにドーパミンという物質を使っています。ドーパミンがたくさん出ると、脳は活性化されて「スイッチオン」状態になります。すると、人は自分の仕事に集中したり、注意を払ったり、自分で自分を調整したりすることができるようになるんです。つまり、ドーパミンがたくさん出ると、人はスムーズに仕事をこなすことができるということです。

脳内のドーパミンレベルは、作業に対する興味関心の度合いと正の相関があると言われています。

人は、退屈な作業をしていると、脳内のドーパミンレベルが下がってしまいます。しかし、ADHDの人は、一般の人よりもその影響を強く受けます。そのため、つまらない作業に集中することができなくなり、やる気が低下してしまいます。これは、エンジンが止まった車を動かそうとするのに似ていて、自分で気持ちを切り替えてもうまくいかない状態になってしまうのです。つまり、
ADHDの人は、ドーパミンが少なくなると、自分で気持ちを切り替えて集中することが難しくなってしまうのです。

まぁ確かに。
乾燥機から溢れ出した大量の洗濯物の山を見ると、比喩ではなく、本当に息が苦しくなったり、頭と体がずっしりと重くなるように感じてしまい、とてもじゃないけど「片付けられそうにない」と感じるのです。

しかし、ある作業がADHDの人にとって非常に興味深く刺激的であれば、時間や場所を忘れて何時間でもその作業に没頭することができます。作業から離れることができないのです。これは過集中の状態です。
私の場合、自分の仕事(行動分析、早期療育、特別支援系)に関することには、寝食を忘れ没頭しがちです。「寝食を忘れ」というより、他のことがどうでも良くなるので、結果的にそうなるということです。

これは、車に例えると、「クルーズコントロール」のようなものです。作業を実行するのにやる気を起こさせるような努力をほとんど必要としない、ゾーンにいるような状態です。これがADHDの長所でもあります。

ADHDとADHDでない人の脳の機能の違い

CHADD(2022)

この図は、ADHDの人とそうでない人の脳の働きの違いを示しています。

右がADHD、左がADHDでない人の脳の働きによる集中力の違いを、赤、青、黄色で表しています。

一番下の赤色の領域は「つまらない仕事の範囲」の大きさの違いを表しています。この領域は、集中して仕事に取り組むことが難しい範囲です。

一番上の黄色の領域は、「興味深いおもしろい仕事の範囲」の大きさの違いを表しています。この領域では、自動的に集中し、長時間仕事に取り組み、完遂することができます。

真ん中の青色の領域は、「興味深くはないけど、つまらなくもない」つまり「普通の仕事」のことです。ADHDでない人にとっては、このレベルの仕事が一般的な仕事なので、いつものように意図的にエンジンをかけ、仕事を完遂させていきます。

反面、ADHDの人にとっては、普通の仕事の範囲が狭く、つまらない仕事の範囲が広いと言えます。そのため、ADHDでない人が普通にできる仕事でも、うまくやり遂げることができないことがあります。なぜなら、このレベルでは、自分の意志でエンジンをかけたくてもかからないためです。

頭では「やらなくちゃ」と思っているのですが、集中力が低下したまま、上げることができないのです。これは、エンジンが止まっている車を動かそうとするようなもので、車を物理的に押して進めるしかありません。ですから、すぐに疲れて、ゴールできなくなってしまうのです。

しかし、ADHDの人にとって非常に魅力的で刺激的な仕事であれば、時間や場所を忘れて何時間も活動に没頭してしまうことがあります。
この場合、タスクから離れることができない、過集中の状態になります。

これは、車が自動運転になり、タスクを遂行するために必要な知覚的な努力がほとんどない、ゾーンにいるような感覚になります。これは、ADHDの長所でもあります!

このように、ADHDの人は、自分の意志でエンジンをかけたりきったりすることが難しい赤と黄色の範囲が非常に大きく、自分の意志で意図的にコントロールできる緑の範囲が非常に小さくなっています。そのため、ADHDの人は状況に応じて、パフォーマンスが大きく変化するのです。

次回はこれらのADHDの特徴に適した戦略を紹介します。

REFERENCE


How to deal with situational variability. Children and Adults with Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder (CHADD). (2022, March 15). Retrieved April 30, 2023, from https://chadd.org/adhd-news/adhd-news-adults/how-to-deal-with-situational-variability/


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