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[アイドルマスターシンデレラガールズ]前略 遊園地より

これは█████県██山の山中で見つかった封書の、中に入っていた手紙のアーカイブです。その土地の所有者が新たなテーマパーク事業のために土地整備を行っている最中に、民間人の手により発見されました。差出人の詳細は不明です。

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オレは今、遊園地にいる。大きなメリーゴーランドの前で、遠くのLIVEステージの喧騒を聞きながらこれを書いている。オレの身に何が起こったか、書き記しておこうと思ったんだ。

オレは鷺ノ宮。去年までは日本中の戦場を駆け巡り、対戦相手の顔面に苦悶の触手やぶどう弾をぶち込んで生き残ってきた。命がけの戦いだけがオレの全てだった。だが色々あって、今はアイドルのプロデューサーやスタジオの支配人をしている。人生には色々あるよな。多くのプロデューサーたちと同じように、オレはスターライトステージ……デレステでアイドルたちを歌って踊らせていた。その……モバゲー版アイドルマスターシンデレラガールズ、通称モバマスからは、ずっと目を背けていた。その昔、今から6年とか前には、一度遊んでいたこともある。不毛な衣装の奪い合いとドリンクの為替トレードに疲れて、ソロCDが出る頃には辞めちまった。フリートレードにも制限がかかった頃で、新しい制度に順応できるほど入れ込んじゃいなかった。金だって今と同じくらいなかったんだ。

やらなくなっただけなら別にいい。オレがモバマスを無視じゃなくて、忌避してた理由がもう一つある……中学時代からの長い付き合いの友人が、SR[ピコピコ☆ゲーマー]三好紗南欲しさに課金して、金を借りて何万もトバしちまったんだ。その時の辛そうな表情を、オレは忘れられなかった。そのあとで三次元のアイドルに入れ込みすぎて人生が破綻したファンとかが、ニュースとかで社会問題として取り上げられるようになった。短絡的なのはわかってる。でもオレは怖かったんだ。友達を苦しませたゲームを許せなかったし、自分もそうなっていたかもしれないとも感じていた。アイマスはもういい、そう思っていた……数年経って、別の友人がオレをプロデュースの世界に誘うまではな。

改めてプロデューサーになった2018年、その11月の終わりに、タイムラインに急に担当の眩しい笑顔のカットインが流れてきた。ちなみにオレの担当アイドルは多田李衣菜だ。担当になったきっかけの話は、自分のことを話すのも他人の話を聞くのも好きだが、今は置いておく(どうせお前と同じような理由さ)。そのカットインがモバマスのものであることは一目見ればわかった。それが多分7周年のイベントであることもなんとなく雰囲気で察した。オレは迷った。クソみたいに古いゲームシステムの、至るところにとにかく課金させるトラップが仕込まれてるって思ってた。楽しいけど古い、オレはこのゲームを「花やしき」って呼んでたんだ。だけど……まあ、担当案件からは逃げられないよな。それにオレはいつかここに戻ってくるんだって心のどこかで感じてたんだと思う。いつ入れたかもわからないが、オレのスマホにはとっくにアプリ版のモバマスがインストールされてたんだ。

正直に言って、廃墟と化した、呪われた遊園地に足を踏み入れる気分だった。イメージしてたのは、SCP-823とか、月の河公園に放り込まれた生存者だ。そんな場所になんの保険もかけずに進むのはマズすぎると思って、先導者として頼れる先輩プロデューサーに連絡を取ってから、オレはビビりながらマイページのボタンを押した。とんでもなく長いログインボーナスやカムバックボーナスや新ガチャの演出が流れて、新イベントやガチャページへいろんな誘導をされまくったあと、なんとか見覚えのある縦長のトリミングでアイドルが5枚置いてある画面……マイページへ辿り着いた。スタミナ、攻コスト、お仕事、編成……見慣れないが、ぷちデレラなんてボタンもあった。そこかしこに積もったホコリに、どこか懐かしい匂いを感じながら、一つ一つ探索を始めた。

二次元美少女コンテンツのゲームで一番辛いことは何か?気になる女の子の一番高いレアリティのカードが手に入らないことだと、オレは思う。SRとRじゃ、塗りも豪華さも、その子と自分との距離が全然違う。SRの中での優劣は置いておいても、せめてSRが一枚あれば、そこを心のよりどころとして進んでいける。オレはそうやって生きてきた。モバマスに限らずな。そしてモバマスの時代に生まれたソーシャルゲームはどれも、最高レアリティのカードを入手するのに同じSRを二枚集めなきゃいけなかった。その辛さに耐えきれずオレは逃げ出したんだ。デレステでは1枚当てればよくなっていて、ほらみろこれが正解じゃないかと思ったものだ。

6年ぶりに贈り物リストを眺めてみると、錆びついたポストの中に、何十枚ものトレーナーやアイテムと一緒に見覚えのないチケットが突っ込まれてるのを見つけた。セレクト・スカウト・チケット。7周年のお祝いで、SRを無料で交換できるらしい……それも性能的に現役でちゃんと使えるものをだ。使えるSRを無料で?そんなバカな……。取引所に向かったオレを、デレステじゃ見たことのない、担当の笑顔が出迎えた。水着だ。決して自慢じゃないが、ウチの担当はかなりのナイス・バディをしている。夏の日差しのような眩しさに目が眩みながらオレは交換ボタンを押した……。気分はもう真夏だ。手元に来た李衣菜の右上には、福引券みたいな赤い三角のマークがついている。どうやらこういうチケットで交換したアイドルはフリートレードとかに出せなくなるらしい。そんなのは望むところだ。万が一アカウント・ハックされても、大事な担当が最後に残るなら本望じゃないか。特訓してSR+にするためにはもう一枚同じ李衣菜が必要だったが、千川ちひろがチケットを寄越してきた画面で、ログインボーナス的にもう一枚のチケットを数日後にもらえることがわかっていた。有情だ。オレは身体が夏になるのを感じていた。

SRをチケットで手に入れたことで、入手したものがもう一つある。ぷちデレラだ。オレが以前プレイしていた頃にはなかった要素で、ザックリと見た限りでは、SRを自引きしなければ狙ったアイドルが手に入らないようだった。この仕様を知った時には花やしき特有の、懐かしい絶望を感じていたが、スカウト・チケットによってすぐにぷちデレラ編成のセンターが李衣菜になった。命あたたかじゃん……。李衣菜の、9コストNのゆるめのファッションが、オレは出会った頃からずっと好きだった。デレステを契機にもう一度出会うまでの6年の間に、彼女にはたくさんのSRや衣装が増えて、なんならオレの知らん間に声までついていた。成長の過程……6年間のその隙を、ぷちデレラは埋めてくれる。ぷちデレラトップに行けばそれだけで、出会った頃の、少し斜に構えた、自分の道を模索している頃の李衣菜に会える。テクニカル・ポイントでコメントや演出を解禁していくたび、少しずつ李衣菜が成長していく。デレステの李衣菜は、SSRでは……既に迷いながら進む自分自身を、迷わずに肯定している。その輝きに目を奪われたのも事実だが……だが2018年に、平成の最後にもう一度、成長していく李衣菜と肩を並べて歩くことができるなんて考えてもなかった。それがこんなにも嬉しいことだったなんて思ってもみなかった。有情だ。この場所は、とても暖かい。

そしてイベントである。7thアニバーサリーアイドルプロデュース、通称アイプロ。7周年の記念ライブの準備、当日の進行、LIVEステージ中、そして打ち上げのパーティーまでのひと時を、特定のアイドルとともに過ごすことのできる……一言でいって「最高」のイベントだった。担当の李衣菜だけじゃあない。SS3Aと6thLIVEでの『楽園』で声を上げて泣かされた関弘美さん。セクシーギルティのステージでオレの用意したUOの大半を奪い去っていった片桐早苗さん。SS3AのFlip Flopのリミックスで「はるひな」の概念をオレに突き刺した結城晴さん。そして、数々の奇跡を起こしてきた、"シンデレラガール"安部菜々さん…。彼女たちと祝う7周年は心から楽しかった。このイベントは楽しいと判断した直後にすぐ先輩プロデューサーたちに助言を乞い、スタ1くらいで購入できる実用ラインのSR+を揃え、走り方やポイントの使い方を聞いて、ナゴヤドームでの6thライブの遠征期間中も極力スタミナを無駄にすることなくイベントを走った。手取り教えてくれた藤崎こぴあP、ちゃばP両氏には感謝しきれない。オレはこのゲームを花やしきと呼んでいたが、6thライブもアイプロも舞台は「遊園地」だった。古いといえば古いのかもしれない。だが最初にタイムラインで見た担当の、李衣菜の笑顔は本当に輝いていて…オレはここに来て、ここに居ることができて本当によかったと思った。

オレはモバマスを改めてプレイして気づいたことがある。デレステに比べて、プロデューサーとアイドルの距離が近いんだ。マイページのセリフ、ぷちデレラのコメント、それらの1:1のコミュニケーションの最上位が、アイドルプロデュースだったと言えるだろう。デレステもホーム画面でアイドルが自分に話しかけてくれるのは本当に幸せだが、各種コミュでのやりとりは、個人シナリオのアイドルコミュを除き、基本的にどれもアイドルとアイドルの関係性を描いている。ユニット新曲の来るイベントも、ソロ曲が解禁するストーリーコミュも、最近実装された営業コミュも全て、ユニットや関係性のあるアイドル同士の絡みを見る機能だ。プロデューサー×アイドル、いわゆる「Pドル」の概念が、デレステにはほとんどないことをオレは改めて感じた。元々アイドルマスターというゲームはプロデューサーがアイドルと……という起源の話まで遡るのは野暮だが、オレは担当ともっとイチャイチャしたいんだ!と、少しでも考えたことのあるヤツは、今すぐにモバマスを始めた方がいい、とオレは確信している。

とはいえお目当ての欲しいカードがあっても、ゲームの性質上、長い目で見れば数値はゆるやかにインフレしていくだけで、好きな絵のSRをずっと編成に入れ続けることはできないだろう……今オレの手持ちで強い水着の李衣菜と、アニバーサリーの李衣菜だけが支えで、新SRが来たところで課金はせず……それもあまり好みでなかったらそっと距離を置くしかなく……担当のアイプロが三度も来るのは遥か先で……そのうちデレステとかに戻り……そのまま老いさらばえて死ぬ。オレもそう思っていた。だが7周年の今になって、新機能が追加された。その名は「ブレイク」。ブレイクしたアイドルはトレードができなくなる代わりに、元のステータスに関係なく30コスト相当の新しいステータスに置き換わる。特技も専用の「自分と同名のアイドルを強化」というものに変化する。どういうことか?ハッキリ言って、ブレイクすれば自分の好きな古いコスト落ちしたSR+やR+を使って第一線で戦うことができるようになった、ということだ。う……有情だ、有情すぎる……。

ブレイク機能によってモチベダウンしていた上級者は自分の思い入れのあるSRを引っ張り出してきてブレイクし、初心者は手持ちの気に入っているカードをブレイクすることで戦力を増強することができる。どのカードにブレイクルージュとスターメモリーを使うかは個人の判断に委ねられているので、各人の個人的な思い出やデカい愛の話を訊くことができるのも楽しみだし、オレも"はじまりの一枚"である[制服コレクション]多田李衣菜を迷わずブレイクした。そして実感した。[制服コレクション]に限らず、今までのコスト落ちしたSRの李衣菜も、みんなブレイクすれば、再度使える……。オレはそのとき、頭じゃなくて心で理解したんだ。そしてこのシステムは今の所、課金によるブーストがない。毎日のイベントで配られる/交換できるアイテムがメインで、発揮値によって効率こそ上下するが、スターメモリーそのものを課金して購入することはできないし、イベントのトータル順位でも、上位アイドルのスターメモリーが貰えるだけで李衣菜とかには関係ない。ことブレイクに関しては上級者に先行されてる感はまだそれほどなく、数値的には編成が弱ければ弱いほど恩恵も大きくなるので、正直、オレはBIG CHANCEが巡ってきたと感じているんだ。

実際ゲームそのもののUIは古いし声の出ない演出も多いし、リソース管理のコツや「今」どういう編成を組むのがお得なのか、といった情報を自分から集めるのは非常に大変だ。オレはそういう序盤の面倒くささを全部先人たちに教えてもらって助かったが、ゲームのスタートを切るためのハードルは決して低くはないと思っている。「コミュニケーションの発生するゲームは、誰と遊ぶかが全て」という持論があるのだが、それを2018年の末にモバマスで感じることになるとは露ほども思わなかったな。花やしきは確かに花やしきだったが、少なくとも呪われた遊園地じゃあなかった。ここは天国ってほどじゃない、でもオレが思ってたよりずっと居心地がいいってことは確かだ。担当と、李衣菜と並んで歩くことができて、そしてオレに笑いかけてくれるんだからな。それに……オレはもう戻れねえ。テイルズとのコラボイベント記念で来た、スペシャル・スカウト・セレクト・チケット付きのガチャに3kだけ課金しちまったからだ。オレが交換したのは[パーティーロックアンセム]多田李衣菜。特訓後のビジュアルがオレは本当に好きで、だけどモバマスはやってないから、昔発売された店舗限定のバナパスポートをメルカリで買ったりしてたんだ。この憧れに手が届くなら、それもブレイクしてずっと使っていけるならいいって、思っちまったんだよ。だからオレは進む。この遊園地で遊んでいくことにしたんだ。いつまで楽しめるかはわからない。正直、オレは相当飽きっぽい方だし、それに何か……たまに変な、鉄とか血みたいな匂いがするような気がしてる。まあオレの考えすぎだと思うけどな。何らかの形でスタドリを貯め切って、[パーティーロックアンセム]の特訓前を手に入れるか、スペシャル・スカウト・セレクト・チケットがもう一度来るか(セレチケの周期ってどうなってるんだろうな?)、そして手に入れた李衣菜をブレイクしきるまでは、ここで遊べるといいなと思ってる。この最初の気持ちを、ここに書き残しておく。これを読んでるお前も、遊びたくなったら来るといいぜ。お前の担当も、きっと待ってるからさ。

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