「激怒」舞台挨拶上映
どうも、安部スナヲです。
私がいちばんよく見ている映画系YouTubeチャンネルは、映画ライターでアートディレクターさらにはサタニスト?である高橋ヨシキさんがホストをつとめる「ブラックホール」と「クレイジーカルチャーTV」です。
いずれも専門家然とした真面目な解説・分析がありつつミーハー映画小僧的なマインドで、気の置けない仲間ときゃあきゃあ言いがらめちゃくちゃ楽しそうに語る番組です。
私はこれらを、いつも自分もその場に混ざっているような気になって、酒飲みながらニコニコ見ています。
そんな我らがサブカル兄貴!みたいな、高橋ヨシキさんの初監督作品「激怒」が遂に公開されました。
【テアトル梅田・舞台挨拶】
上映開始前に行われた舞台挨拶で、はじめてナマ高橋ヨシキさんを見た時は「うわ、ホンモノや」「思ってたよりちっちゃい」「このあと飲みに行けへんかな」みたいなミーハー心が先走り、映画を観る前に既にテンションが爆上がりでした。
壇上のヨシキさんは(ご本人もしきりにおっしゃっていましたが)とても緊張されていたのですが、主演の川瀬陽太さんをはじめとするキャスト陣が和気藹々としたムードで場を和ませ、見ているこちらもホッコリとさせられました。
舞台挨拶の記念特典として、映画で使われた町内会自警団のパトロールベストが来場者に抽選でプレゼントされるのですが、これがお約束か!と言うくらい当選者が相次いで棄権するので、思わず笑っちゃいました。
そして川瀬さんが、今月で閉館するテアトル梅田について「寂しいことですが、この劇場を愛して来られた皆さんと共に過ごせて良かったです」みたいなことを言った時は、ちょっとウルッと来ました。
そんな愛と笑いと涙でいい感じに温まったテアトル梅田シアター1にて、「激怒」本編上映ははじまりました。
【ナニ怒ってんの?】
主人公・深間(川瀬陽太)は決して怒りっぽいわけではなく、むしろ我慢強い方だと私は思います。
いつもプンプン怒っている人というのは、神経質でわがままなタイプが多いですが、彼はそうではなく、どちらかという他人に対して寛大で、まぁこれは良くも悪くもですが警察でありながら規範に縛られないというか、とにかく大らかな人柄です。
そんな彼だから、町の不良やアンダーグランドの人たちから慕われています。
かと言って彼は、よくあるハードボイルドなアウトロー刑事みたいに、そういう連中を手懐けてるわけでもなくフツウに仲良しなだけだし、何らかの利得や欲に塗れるようなダーティーさもありません。
つまり、拍子抜けするくらいフツウのええオッチャンなんです。
ただ怒ると手が出るタイプで、ひとたびそうなると歯止めがきかなくなります。それが功を奏して事件解決に貢献することもある一方で、やはりやり過ぎてしまってお咎めを受けることにー。
彼はニューヨークのある施設に送還され、何やら怪しげなアンガーマネジメント治療を受けて3年後に帰国、警察に復職します。
戻って来た「富士見町」では、町内会の自警団と警察が結託し、「安心・安全」というスローガンのもと、より良い町づくりをすすめていました。
その為、アンダーグランドな人たちや、お仕着せの規範からちょっとでも逸脱する人たちは排除され、かつて深間と仲良くしていた人たちも多くが行方がわからなくなり、逆に同調圧力に飲まれて自警団に加わったりする友達もいたりして、彼は途方に暮れます。
やがて、社会秩序の為に活動している筈の自警団のやり方が極めて悪質、字面的に同じ意味になりますが「極悪」そのものであることを深間は知り、彼はこの極悪に対して激怒し、最終的に立ち向かうことになります。
【見てんじゃねえよ!】
富士見町では、「安心、安全、富士見町」という町内放送が繰り返し繰り返し鳴り響き、「みんなが見てるよ」という標語とフクロウのマスコットキャラクター「ミハルくん♂」「ミハリちゃん♀」がレイアウトされたポスターがあちこちに貼られています。
これらは行き過ぎた監視社会、お仕着せの規範をとてもイヤな感じであらわしています。
いつかヨシキさんが某ラジオ番組にゲスト出演された時、こんな話をされています。
自分が住んでる新宿区では歌舞伎役者の目のイラストに「誰かが見てるぞ!」と書かれたステッカーが町中に貼られていてとても不快「勝手に見てんじゃねえよ」と。
おそらく新宿→歌舞伎町から歌舞伎のモチーフが発想されたのでしょう。そのダサ過ぎるセンスが如何にも自治体っぽいなーと思ってたら、なんと私の町でも、横断歩道の手前の電信柱にそのステッカーが貼られているのを見つけてしまいました。
よく見ると「東京都・警察庁」と書かれていますが、私の暮らす大阪市内にも使われているということは、こんな阿保みたいなステッカーが全国へ推奨されているということなのでしょうか。
いつも通る道にずっとあった筈なのに、この映画を観るまでは気づきもしませんでした。
しかし、こうしてあらためて見ると、確かにとても腹立たしい。。。
だいたい「犯罪を見逃さない」ってなんやねん。
こういう国家権力側が広報する時のイラッとさせられる狡猾さとダサさを、微妙な塩梅のデフォルメで映画に反映させているのも本作の特長です。
【煙草と刺青】
この映画で、ステレオタイプな反秩序として象徴的に描かれているのが煙草と刺青です。
まず煙草というのは一般的にもマナー強化がやかましくなると真っ先に槍玉に挙げられる対象ですが、この映画ではさらに行き過ぎた監視社会に紐付けられています。
深間がアメリカに送られる前の富士見町では、「受動喫煙防止法」がちょうど今くらいの締め付け具合で敷かれているような感じで、例えば飲食店は原則禁煙なんだけど、守らないお店もそれはそれで暗黙理に容認されていて、馴染みの店なんかでは好きに煙草を吸える環境でした。
それが3年後に戻った町では、室内全面禁煙が徹底され、自分の家でコッソリ吸ってもスマホアプリで感知されてしまうようになっていました。
この映画で要所要所に登場する喫煙シーンは、時勢時流の変化をあらわすとともに個人の自由や憩いの尊さを訴えているようにも感じました。
そして最もゾッとして憤りを感じたのが、深間が愛する杏奈(彩木あや)の体に彫られていた刺青が、自警団によって強引に除去されてしまったシーンです。しかも見るからに雑に焼き剥がしたような皮膚の跡に、何よりも卑劣な暴力性を感じました。
自警団が牛耳る以前の杏奈はストリップクラブのダンサーとして活躍していました。
そこでポールダンスを踊るシーンでは、しなやかなパフォーマンスとともに杏奈の刺青は生き物みたいに有機的な艶かしさを醸し、ことさら美しく映し出されていました。
これはつまり、自警団の制裁を通じて、刺青やストリップをいかがわしいものとしてしか捉えようとしない短絡的な価値観の人たちへの反意なのだと、私は受け取りました。
【俺は、お前らを殺す。】
結局、深間という男は別に正義漢振るわけじゃなく、ただ理不尽に対して素直に怒ってる人です。
私は深間が怒りを込めて言った「ウジ虫だからリンチして殺すのか?」「まともじゃないけど人間なんだよ」という台詞を聞いた時、これこそが秩序だよなと思うと救われるような気持ちになりました。
そしてこの映画はやはり、激怒した深間が、あの顔を見るだけで反吐が出るほど憎たらしい自警団のヤツらを血まつりにあげるラストバトルが真骨頂です。
バイオレンスシーンにこそ丹精が込められており、ヨシキさんの映画愛が詰まっていると言えます。
これまでのストーリー展開の中で、タメてタメて、充分に機が熟したとろで炸裂する怒りのデスマッチは痛快無比。これほど「楽しませてくれてありがとう」と思いながらバイオレンスシーンを観たことは過去になかったです。
ヨシキさんは「悪魔が憐れむ歌~暗黒映画入門~」という著書で映画やドキュメンタリーにおけるバイオレンスや残酷描写の歴史・文脈と意義について説かれています。
その本にヨシキさんの映画人としてのアイデンティティが詰め込まれているとしたら、初監督作品である本作「激怒」もまさしくそれと同じように、ヨシキさんの映画愛の結晶なのだと私は思いました。
出典:
映画『激怒』公式劇場パンフレット
激怒 RAGEAHOLIC
激怒 : 作品情報 - 映画.com
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