「最強主人公」レギュレーション

「最強主人公」系の作品――
漫画でいえば『ワンパンマン』『ヘルシング』『魔人探偵脳噛ネウロ』『EAT-MAN』『ゴルゴ13』あたりを勝手にそう呼んでいます。
あまり詳しくはないですが、「なろう」系作品も多くが該当するのではないでしょうか。
私はこういった作品を、特定のレギュレーションで「いかに話を転がすか」という競技性を楽しんで読んでいるところがあります。

つまり、「最強主人公」であると話の展開に制約がかかるからです。
たとえば、「主人公は苦戦しない」
ふつうであれば、強敵が現れ、本当に勝てるのか、どうやって勝つんだ、もしかして負ける? といったハラハラドキドキで話を展開させるものです。
「最強主人公」ではそれができません。
どんな敵でも瞬殺なり圧勝。しかし、それでは早々に飽きられてしまうおそれがあります。

また、それゆえに「敵の強さがわからない」
主人公が強すぎて、「敵が弱すぎるだけでは?」と思ってしまうとつまらくなってしまいます。
主人公の最強性を維持しつつ「敵もちゃんと強い」「敵も弱いわけではない」と印象づけるには?


こんな感じで、「最強主人公」には作劇上不便な点がいくらかあると考えます。
そこに競技性を感じるのですが、競技性というからにはどういったポイントで評価が上がるのでしょうか。
完全に個人的な指標ですが、まとめてみます。

※以下はあくまで「最強主人公」レギュレーションとしての評価です。「反しているから作品としてつまらない」ということはありません。
※審査競技であるためその基準にはだいぶ主観が混ざります。


【評価+】主人公は苦戦しない

基本中の基本です。
そして、主にこの制約のために「最強主人公」レギュレーションは競技性を高めているといえます。
(残念ながら『ネウロ』終盤はこのレギュレーションに反している形になります)

肝心の戦闘シーンは短くなりがちですが、むしろ短いほど評価は高くなります。
『ヘルシング』のように「蹂躙」する形だとそれなりに長々と主人公の最強っぷりを味わえ、それはそれで美味しいです。
『ゴルゴ』はたまに追い詰められているかのように見える場合もありますが、正直不安感を覚える要素は皆無なので問題ないといえばないかもしれません。


【評価+】主人公が一瞬だけ負けそうな雰囲気になる(雰囲気だけ)

具体例を挙げると、たとえば『ワンパンマン』で「え……? そんな……まさか……」とサイタマが敵の強さに驚愕しているかの演出で、実は「今日が土曜日」ということに驚いていた、といったブラフ。

あるいは『ネウロ』で、「弱体化している」という伏線がさんざん張られていてなお「だからといってお前くらいなら楽勝だが?」と覆してみせたり。
「最強主人公」としての位置づけは堅持しつつも読者を騙す形でハラハラドキドキさせる展開は評価が高いです。

ただ、この手法はすぐ慣れてしまうのでせいぜい数回が限度でしょうか。
(読者が主人公の「最強」さに疑問を抱かなくなってくると難しくなるため)


【評価?】舐めプ

「一見苦戦していたように見えましたが、主人公が舐めプしているだけでした」
これが許されるかどうかはその作品の傾向や舐めプしていた理由によるでしょうか。
たとえば『ゴルゴ』はプロなので舐めプは許されません。
『ネウロ』で魔帝七ツ兵器をすぐに使わなかったのは「消耗が激しいから」と理由づけがされておりOKです。

また、あまり長々と舐めプされても「早く本気出せよ!」と焦れることはあります。


【評価+】敵もちゃんと強そう

「敵が強そう」であることは当レギュレーションでなくても重要なことではありますが、「最強主人公」ではより難しいものになります。
実際に向かい合って「なんて殺気だ……!」と主人公がビビったり、敵が「あいさつ代わりだ」と力を見せつけるなどの定番手法は使えません。
主人公と対峙したときは負けるときだからです。
それも圧倒的な力で負けます。基本は瞬殺です。むずかしいですね。
(『ネウロ』のシックス登場シーンはいい感じでした)(登場シーンは)

では、噛ませキャラを使って敵の強さを盛り立てる……?
ちょっと待って! それは評価マイナスポイントです。


【評価-】サブキャラの活躍が重くなる

主人公が強すぎるので敵の強さがわからない。
ので、まず敵の強さを強調するために適当な噛ませキャラとぶつけよう。
その噛ませキャラの強さがわからないので先に噛ませキャラを活躍させよう。
そうしているうちに、主人公が強すぎて扱いづらいのもあり適度な強さのサブキャラが活躍しはじめるのはよくあることです。
その展開でももちろん面白いには面白いのですが、レギュレーションとしてはやはりマイナスです。
(『ワンパンマン』や『オーバーロード』が該当します。いえ、面白いのは面白いのですが)

サブキャラがある程度活躍して主人公を盛り立てるのは必要ですが、サブキャラに焦点を当てる時間は短い方が望ましいといえます。

『ゴルゴ』はゲストキャラ視点でゴルゴはあくまで「装置」のような位置づけで話が進むことも多いですが、一話完結型でしっかりゴルゴは活躍しますのでそこまで評価に影響はありません。


【評価-】主人公と同格の存在が現れる

これはめちゃくちゃ評価が下がります。
主人公が肩書の時点で最強性を誇示しているタイプだと特にそうです。
たとえば『ネウロ』はこの点にかなり気を遣っていて、最後の最後までネウロと同格の「魔人」は登場しませんでした。
(最後に「魔人」自体は登場しますが、格下であり「敵」ではありません)

「主人公と同格」という触れ込みであれば「お、もしかしたら今度は苦戦するかな」と読者に思わせることは簡単です。
簡単だからこそ競技としての評価は低くなります。
せいぜい「同格っぽいと思わせる」程度に留めてほしいところです。


【評価+】敵側が主人公対策に頭を捻る

「最強主人公」でも、最初は誰も彼が「最強」であるとは知りません。
序盤は舐めてかかってきた敵を返り討ちにする展開で進むのが定番です。
しかし、そうやって返り討ちを続けていけば主人公の「最強」さも次第に知れ渡っていくはずです。

そこで、「あの最強主人公をどうすれば倒せるだろう」と敵側が対策を考え始めると「次のステージに進んだな」と嬉しくなります。
(『ワンパンマン』のようにいつまでも周知されない場合もありますが、それもそれでよし)(それでもA級には上がりましたが)

そして、敵側は主人公の最強さを知りつつ「勝てる」と(少なくとも本人は)確信できる戦術・戦略を発想する必要があります。
その内容が「なるほど、たしかにそれなら勝てると思うはずだ」と思えるようなものだと評価は高くなります。
もちろん、主人公はそれを一捻りにしなければなりません。


【評価+】インスタント雑兵

これは評価点というかあくまで展開の一例というべきものですが……。
たとえば『ネウロ』のHAL編。「電子ドラッグ」によってインスタントに兵隊を増やせるため、いくらネウロにそれをぶつけて倒されても敵としては大して痛くないという状況がありました。
『EAT-MAN』のレオン編でもロボットを大量生産してぶつける形で、次々と倒されはしますが敵としては大して痛手になりません。

このように、「インスタント雑兵」は「主人公の最強性を損なわない形で敵の格も落ちずに厄介さを強調できる」優れた手法といえます。
話としても自然にそれなりの長編として膨らませることができます。


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