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シリコン上にAuを回収する技術

こんにちは。
『表面技術』2022年6月号に、知らない金回収方法が掲載されていたので書き残しておきたいと思います。

タイトルは「シリコン上への置換析出を利用した環境調和型金回収プロセス」で、著者は兵庫県立大学の方です。

※トップ画像はシリコンインゴットの写真にときめいたので使わせてもらいました。

背景・目的

金(Au)の回収方法としては、セメンテーション法、電解法、吸着法などがあります。

新しい回収方法として掲載されているのはセメンテーション法の亜種のようなイメージです。
通常は回収したい金属に対して卑な金属を還元剤に使用しますが、新しい回収方法ではシリコンを用いるようです。

セメンテーション法に関しては、webで検索すると以下のような説明がありました。

金属イオンを含む溶液に他の卑なる金属片を入れると、浸した金属片が酸化・溶解し、溶液中の金属イオンが金属片上に還元されて付着することは古くから知られている。これは、酸化還元電位の差を利用して、卑な金属を投入して貴な金属イオンを金属に置換還元する方法で、セメンテーションあるいは金属置換法と呼ばれ、分析から工業的なスケールまで用いられている。

資源と素材(Shigenn-to-Sozai)、Vol.118 p.5(2002)

この方法の特徴は、(ⅰ)Zn粉やFeくずなどの安価な金属を還元剤として利用できること、(ⅱ)不順である他の金属イオンが共存するときでも、回収したい貴金属よりも卑で、不純物よりも貴な甘言電位を有する金属を用いることにより分離が可能であること、(ⅲ)貴金属の回収に対して講習率であることなどがあげられる

資源と素材(Shigenn-to-Sozai)、Vol.118 p.5(2002)

鉄の板などを貴金属の溶解した液に浸すと、鉄の板の周りに貴金属が析出するというイメージですかね。無電解めっき見たいですね。

回収方法

私の理解したことを一言で書くとすると、「Auを溶かした液体にシリコン粒子を入れて、シリコン表面に金属Auを析出させる」技術のようです。

ここで大切なのは、シリコン粒子の表面の酸化膜が溶解する条件を見つけることです。

この回収方法では、シリコンの局所アノード反応とAuの局所カソード反応により置換反応を利用します。
シリコンの局所アノード反応が起こるためには、シリコン表面の酸化膜が溶解する必要があるため、Auが溶解した液のpHを9以上にする必要があるようです。

電子部品などのスクラップからAuを溶解するにはチオ硫酸アンモニウム系の浸出液を使用するそうです。一般的には、シアン系の浸出液を使うようですが、この記事では毒性を嫌って、比較的安全で安価なチオ硫酸アンモニウム溶液を使用しています。

Auを溶かした液にシリコン粒子を入れることで、シリコンの周りにAuを析出させて、シリコン粒子を回収することでAuも回収できるという方法のようです。

シリコン粒子も、半導体製造工程などで発生する切削屑を使えるので、とても経済的な方法ということです。

シリコン粒子からAuをどうやって切り離すかは書いてませんが、シリコンだけ除去する方法はいろいろある(と思う)ので、気にしなくていいのかもしれません。

実用化はこれから

凄く簡単な方法でAuが回収できるような気がしますが、実用化はまだされていないようです。文末で、回収金属の選択性向上が課題として書かれており、複数の金属が混ざっている場合は条件出しが難しそうな印象があります。

著者の研究室の紹介を見ると、メインはめっき技術のように感じるので、貴金属回収は昨今の情勢からのプレッシャーもあって始めたのかもしれないですね。どうなんでしょうか。


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