歯科医療で使われる電鋳加工
表面技術2022年4月号は”電鋳”に関する特集が掲載されています。
電鋳に関する概要はヒキフネやエビナ電化工業などメッキ加工企業のサイトを見るのが良さそうです。
特集の中で、歯科医療向けの電鋳加工が紹介されており、個人的には歯科という分野で電鋳が使われていることを知らず、意外と面白かったのでここに残しておこうと思います。
歯科医療のどこで電鋳を使うかというと、義歯(入れ歯や差し歯)を作るときに使用するらしいです。
といっても、義歯を作る手法としては、鋳造やCAD/CAM法のほうが主流のようです。
歯科電鋳加工について
この特集では、これらの手法に対して、電鋳を使用した義歯の優位点を説明しています。分かりやすく、大きな点としては以下のポイントが優れているようです。
①元の歯を削る量が少なくてよい
電鋳は基本的に電解めっきと同じ原理で金属膜を母材(マスター型)から剥離して作るため0.2~0.3mmの薄いものしかできません(電解めっきで作る膜としては、かなり厚いほうです)。逆に他の方法ではこの厚みは難しいので、相対的に元々の歯を削る量が少なくて済むということがメリットになります。
②腐食しにくく、プラーク付着が少ない
鋳造法に比べて、電鋳で作った金属は粒界が少ないことが様です。粒界が少ないということは欠陥が少ないと考えられるので、腐食したり、菌が付着したりするスキがないのかもしれません。
③コアとの適合精度の調整が容易
上記の義歯の作り方を紹介しているURLをみると、コアの上に冠をかぶせる構造が分かると思います。コアと冠はセメントで接着するので、10μm程度の隙間が必要になります。
電鋳で冠を作る場合、母材表面にシルバーラッカーを塗った上に電鋳をするのですが、シルバーラッカーは後工程で溶解されるので、その厚み分だけ母材より大きい冠ができます。
つまり、シルバーラッカーの厚みを変えることでコア-冠間の隙間を簡単に調整できるようです。
④挿抜時の抵抗が少なく、長寿命が期待できる
上記のように隙間調整が容易なうえに、母材形状の転写性が高いため、挿抜抵抗が鋳造品よりも小さいことが特徴のようです。挿抜抵抗が低い=摩擦が小さい=摩耗が少ない、ということで寿命の面でも有利だということです。
⑤実働時間が少ない
記載によると電鋳を用いて制作する場合の所要時間は7時間半くらいかかるようですが、6時間は電解めっきにかかるのでほぼほぼ放置しておけばよいということで、実働時間は90分程度のようです。
鋳造やCAD/CAMの場合は、モデルを作ったり、型を作るのにそれ以上の時間がかかるのかもしれません。この辺りは書いてないので想像です。
他にも特徴がありますが、理解が追い付いてないせいか、そんなに魅力的には感じませんでした。
デメリットというか、イケていないと感じたのは、シルバーラッカーの塗布に職人的な技能が必要とのこと。内容を読む限り、マスター型を作りこむのと同じくらい塗布工程は重要だと思われます。
簡単に厚みを変えられると書かれてますが、普通に考えると塗工ムラを改善するのはとても大変です。5~10umの厚みを狙うことを考えると材料の粘度を考慮して乾燥方法もしっかりケアしてやらないとうまくいかないのではないかと思います。
逆にこの部分を自動化なり、素人でもできるようにすれば、もっと使いやすくなるではないかと感じました。
感想
仕事でめっきを使うことはありますが、工業製品に使っている技術を口腔内の義歯に使うという発想が今までなかったので新鮮に感じました。
しかし考えてみれば、全然ありですね。普段仕事で使っている技術も、もっと広い視点で見たらいろいろなことに使えそうだなと思いました。
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