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星を見た人

「今日、星を見に行かない?」

何度も交わしたやり取りだった。突然気が向いてそんな話を交わす。レンタカーを借りて私が運転する。深夜の高速道路を走り、長野か海の方へ向った。

縁あって知り合った友人は色白で細身、表情がコロコロと変わるとても可愛らしい容姿と雰囲気とは対照的に、SlipknotのTシャツを着るような子で系統は違うもののお互いにバンドが好き。年齢も一つ違いで飲む事と楽しい事が好きで、仲良くなるのに時間は掛からなかった。
気付けば毎日のように一緒に居た。散歩してお金がないからコンビニでお酒を買って外で飲んで、ダーツをしてトランプをしていた。過去の話をして楽しい事も悲しい事も共有した。

友達の少ない人生だった。
映画のチワワちゃんでこんな言葉を言っていた。「女の子は気遣うから疲れて、男の子は楽だけど消耗する」
誰と居ても孤独で苦しい。今でこそ減ったけれど、10代の頃はよく感じていた。いつも作った笑顔を張り付けて、うまい言葉が紡げなくて知らぬ間に傷付ける言葉を言ってしまう。後悔を重ねれば重ねる程苦しくなって、気付いたら友人と呼べる人が片手で数えるほどしか居なかった。

その友人は全て伝えてくれる人だった。私の事を大好きな友達だと思ってくれていて、もっと遊びたいと、死ぬまで友達だと伝えてくれた。その姿にとても感謝していたし、羨ましくもあった。よく笑うから一緒に居ると釣られてよく笑っていた。

2020年の今、かなり減らしたタバコを片手に、街頭に照らされて僅かしか星が見えない夜空を見上げる。星を見に行きたいと思った。

一昨年の冬はその友人とよく星を見に行っていた。
平日休みだった私達は、静かで真っ暗な高速道路を何度も走り、海の見える場所へ行ったり長野へ行って進むのも少し躊躇うような山を登った。
自分は特別星が好きな訳ではなかった。目が悪くコンタクトレンズをつけているが、星空は平面な闇に点が並んでいるだけに見える。目に見える世界より写真の方が美しい。冬に見に行く星は正直寒いしその場に感動はそこまでない。

一緒に行ったその友人は私の横で、泣いていた。

そんな泣くほどのものだろうか。極寒の中、白い息を吐き星空をただただ見つめる友人と、星空を交互に見る。その友人が見てきた世界を私は見る事が出来ない。中学生で両親とも家を出、兄弟もいない天涯孤独の身であるその友人は、私よりも深い孤独の中でこの星空を仰いでいるのだろう。

今ある現実よりも思い出の方が美しい、と何度も感じる。今振り返ると友人の涙も星空も美しかった。星を見に行きたいと思っているけれど、またなんでもない空だと思いながら見つめるのだろうか。それとも、いつからかお互いに離れきっともう二度と話す事はないであろうその友人と見た空を重ね、戻る事はない日々に思いを馳せるのだろうか。


そういえば中学生の林間学校で見た天の川が忘れられない。白川郷の夏の日にキャンプファイヤーの合間に空を見上げた時の満点の星空は今でも覚えている。当時片思いしていた彼はどこかで見ているだろうか、と考えながら寝転がった事も鮮明に覚えている。もう一度そんな空を見たくて何度も白川郷に行ったけれどいつも曇っていて、結局同じ空を見れていない。


思い出はいつだって美しい。夜空に浮かぶ星の瞬きが、ずっとずっと昔の事であるように。


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