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有事のビジネスリスクインテリジェンス 情報の収集と理解(1) 情報収集のポイント

ウクライナに対するロシアの侵攻が始まって、1週間以上となりました。ロシアの軍事行動が当初の計画のとおりに進んでいないと言われる一方、原子力発電所への武力攻撃が行われるなど、予断を許さない状況が続いています。

前回、有事のビジネスインテリジェンスの原則について述べましたが、その起点となる情報の収集と理解について今回は述べてみたいと思います。
有事になると、玉石混交の様々な情報が錯綜します。それらの中には、発生している状況を的確に示すものもあれば、関係者の思惑や予測が入った、信頼性が低いものもあります。中には、ある目的のために流される偽情報もあります。ウクライナの軍事紛争では、過去の動画や画像、周到に演出された情報を使った、いわゆるフェイクニュースがSNS上で大量に流通しています。それらをどのように処理し、適切な意思決定につなげるか。鍵となるのは、情報をいかに集め理解するかです。そのポイントについて解説します。

まず初めに、その情報が、自分が下すべき意思決定にとって直接的または間接的に影響を及ぼすものであるかを評価することです。ビジネス上の意思決定において、学問的・学術的真実は、意味がないわけではないですが、有事のビジネスインテリジェンスでは、それを明らかにすることが目的ではありません。今自分が下すべき判断、そして今後続くであろう状況判断や意思決定に対して、その情報が影響を及ぼすのか、決定を正しいと仮定した場合に「矛盾しない」情報なのかを判断します。
すべての情報には、多かれ少なかれノイズがつきまとうので、ある仮説を直接的に支持する一方で、仮説が否定される可能性が全くゼロであるといった「スーパーな」情報はあり得ないといっても過言ではありません。とはいえ、情報のノイズや誤りを恐れるあまり、下すべき判断を下せず、事態がより悪化してしまうのは避けなければなりません。多種多様な情報の中でどの情報に信頼を置くか。主な基準となるのは、その情報がどのように生成されたかと、その情報と他の情報との間に矛盾や不整合がないかの2点です。

最も蓋然性(もっともらしさ)が高い情報は、物理的・技術的に生成された情報です。水が入ったポットを火にかけたら熱湯ができたというのは、その例でしょう。少なくとも、「コーヒーカップを横に置いた男が台所で何かガサガサしていたら、そのうちお湯ができていた」より説得力がある情報です。
なに当たり前なことを言っているのかと思われるかもしれませんが、有事で緊張しているときには、意外とおろそかになる着眼です。「現地と連絡が取れない」といったとき、つい「何か問題でもあったのだろうか」という心配をしがちですが、まずは「連絡手段が物理的に使える状態なのか」を評価すべきでしょう。そのために平時から「現地要員は常に携帯電話の電源を入れておく」とか「毎日定時に状況報告する」というルールをきめるいみがあるのです。その二つが守られていることで、「日本から要員の携帯に電話をかけてもつながらない」「定時の状況報告がない」という2つのイベントが同時に発生する確率(少なくともどちらか一つが起こる確率を1から引いた確率)が極めて小さくなり、「なんらかの事態が起きた」という状況判断の確かさが高まるのです。

もう一つの基準である、「その情報が他の情報と矛盾や不整合がないか」という視点は、情報の特質から重要になります。有事で気持ちの余裕がないときほど、状況判断や意思決定に直接つながる情報を求めがちですが、そのような当事者の精神状況が脅威側につけ込む隙を与えるのです。
インターネットが普及し、情報の流通コストが劇的に小さくなったことにより、大量の情報がネット上で行き交うようになりました。これは言い換えると、人が自分の力でコントロールできる情報の割合が極めて小さくなったということを意味します。世界の権力者といえども、自分に都合が悪い情報を全て自分の権力でシャットダウンできる世の中ではなくなりました。
自分の判断に都合の良い情報が手に入った時ほど「そんな都合の良い情報が入ってくるのか」と、一旦立ち止まって考えるだけで、目の前の情報に振り回されて判断が狂ったり、右往左往することが少なくなります。そのためには、意思決定者とは別に「情報スタッフ」を置き、意思決定者から独立情報収集・分析させることが有効です。それにより、意思決定者や組織がより客観的な判断ができるようになります。
情報スタッフの育成には、情報分析や意思決定支援の経験や知見が大きい専門家を活用することが有効です。

次回は、情報収集と理解における「理性」と「感情」について説明します。

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