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現在の“戦場のピアニスト”が伝えたのはアートとサウンドが醸し出す“祈り”の力だった

カナダ大使館地下2階のオスカー・ピーターソンシアターで開催された「ザ・サウンド・オブ・ウクライナ : イマーシブ・コンサート」を拝見した。

このコンサートは、カナダ大使館とウクライナ大使館による共催で、翌日が2年前にロシアによってウクライナが侵攻された日にあたるというタイミングでの開催となった。

なぜカナダ大使館でウクライナにちなんだコンサートが開かれるかというと、カナダにはロシアに次いで世界で二番目に多くのウクライナ移民が暮らし、大きなコミュニティを築いているからなのだとか。

カナダ政府の寛容な移民政策は折に触れて知る機会があったのだけれど(香港の民主活動家の周庭=アグネス・チョウさんがカナダで亡命を表明したことも記憶に新しい)、ウクライナ移民の受け入れは100年ほど前から始まっているもので、その絆の深さは日本の及ぶところではない。

こうした簡単な経緯の説明が、コンサートの前段として次々と登場した関係者(ウクライナ駐日大使を含む)から語られたあと、ウクライナの作曲家でピアニストのティムル・ポリャンシキイがステージに姿を現した。

ティムル・ポリャンシキイはウクライナの著名なアーティストで、今回のロシア侵攻後も首都キーウに残って音楽活動を続けて、国民の心の支えとなっているという。

コンサートはまず、ポリャンシキイのソロで始まる。しっかりとしたクラシック音楽の素養を感じさせるヒーリング系のスタイルの荘厳な演奏だ。即興で奏でられたメロディはどうしても“祈り”を感じさせるものになっている。

続いて、日本ウクライナ芸術協会代表でヴァイオリニストの澤田智恵が登場。デュオによるポリャンシキイのオリジナル曲〈Heroes Don't Die〉を披露する。この曲も哀愁を感じるメロディが印象的だった。

ティムル・ポリャンシキイによるイマーシヴなステージ(筆者撮影)

後半は、ポリャンシキイの演奏とスクリーンに映し出されたアート作品のコラボレーションによる“イマーシヴな”ステージだ。

ティムル・ポリャンシキイによるイマーシヴなステージ(筆者撮影)

“イマーシヴ”とは、VRなどを用いた没入感のあるパフォーマンスのこと。

会場の関係で圧倒的な没入感を与えるまでの演出は叶わなかったが、圧倒的なアートのインパクトと、それを増幅させる音楽の相乗効果で、十分に“感情”が伝わってくるパフォーマンスとなっていた。

ティムル・ポリャンシキイによるイマーシヴなステージ(筆者撮影)

会場では黙祷が捧げられ、ウクライナで親しまれているというラテン調の曲が選ばれたりと、来場者がよりウクライナを身近に感じられる工夫も施されていたと思う。

“支援疲れ”が囁かれ、埋もれがちになってきたウクライナの現状ではあるが、この“隣の国と隣の隣の国の諍い”を自分事として考え続けられるように、音楽の力を借りて祈りたいと思った夜だった。

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