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■■ CREATION <創作作品> ■■

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「創作」としての文章を書くことに関しては、まだまだ未熟でつたない私が、その当時のめいっぱいを尽くした作品たち。 #aeuの詩#aeuのショート #小説とエッセイの間 もっと読む
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記事一覧

knife / outlook |#小牧幸助文学賞応募

『knife』 「障害者なんかじゃない」 盾が突き刺さる。 『outlook』 「幸せにするよ」 腹を括る彼の背を睨んだ。 #小牧幸助文学賞 どうも、滑り込みクイーンの異名を持つaeuです:) (異名いろいろありすぎじゃない?) 先日の小牧さんの記事にて 気になっているものの様子見をされている方も ぜひ振るってご応募ください と、仰せでしたので、駆け込みで2作品! 参加させていただきました:) ずっと気になってはいたんです……! いやあ、今ハッシュタグ見に行った

【ピリカ文庫】お母さんが朝顔になった日

 その日、お母さんは朝顔になった。  5月の連休が明けた頃、シュンが通う小学校では「生活」の授業で朝顔の栽培が始まった。  種を植え、たっぷりのお水をまいて発芽を待つ。  シュンが母に、学校で朝顔の栽培が始まったことを伝えると、大の朝顔好きの母は「毎日観察日記を付けるといいよ」「育つのが楽しみだね」と言って、それはそれはすごく喜んでいた。  翌週、茶色い土のなかに黄緑色のかわいらしい芽がぴょんと出ているのを見つけたシュンは、母に言われたとおり観察日記を描いて、駆け足で家に

『その指に恋をして』 #春ピリカ応募

「私、今日の帰り柊ちゃんに告白する」  唐突な私の宣言に、教室で一緒に昼食を食べていた友人たちは好物のおかずもそっちのけで身を乗り出した。 「萌音、ついに柊哉先輩のこと好きって認めたね!」  「うちらが幾ら好きだね~って言っても頑なに抵抗してたのに!」 「『私は柊ちゃんの指が! 好きなの!』」  友人たちが声を揃えていつもの私の台詞を真似てみせる。 「ゆ・び・が!」と強調するところまで忠実だ。 「あんた柊哉先輩の指が好きすぎて、2,3年の先輩にソロ譲ってくれって頭下げ

『ゴッドハンド』 #aeuのショート

「神野先生、先週手術を終えた506号室の阿久津さんですが、このまま何事もなく退院予定ですか」 「ああ、江戸くん。先週も言っただろう、彼の胃がんは早期発見で転移も無しだから、摘出手術で完治。あとは身体の回復を待って退院」 「そうかぁ、ちょっと残念ですね。もう少しスーパードクターの凄腕を見たい気もしたんだけどなぁ」 「江戸くんキミね、間違っても外でそんなこと言うなよ、人の命を何だと思って——」 「わかってますよ。そういえば徳田が研修医として初めて手術室に入るから、最初は複雑な病状

『魔法鏡』 #夏ピリカ応募

「よそ見してんじゃないよ、どこ見てんの! 鏡見ろ、鏡!」  ダンススタジオの一室で、講師ミチコの激しい叱咤が、流れる音楽を突き破って響き渡る。 「どこができてないのか自分で確認する! なんとなくやってんなよ! 蛍、聞こえてんの!?」 「はいっ……!」  蛍は上がった息を整えようと深呼吸をするが、思うように踊れない悔しさが呼吸をさらに掻き乱した。  ミチコが部屋の東側の壁を眺めながらため息まじりに言う。 「お前は元々、灯哉に憧れてここに来たんでしょ。灯哉に認知されたいだけなら、

『トランセル』 #aeuの詩。

「かたくなる」はできるけど攻撃向きじゃない  きみが言ったことばを  何度も何度も思い出すのは  やっぱり「かたくなる」をするこの瞬間  身を守るために  ひたすらひたすら カラを硬くして  嵐が静まるのを待つの  ねぇ知ってた? 実はあたし  どうやら「いとをはく」もできるみたい  ここまで生き延びた日々のなかで  いつの間にかおぼえていた技  攻撃を受けないように  幾つも幾つも予防線を張っておくの  ああされないようにこうしよう  ああされたらこっちに逃げよう

『おもちゃのラッパ』 #aeuのショート

 パチパチパチパチ。パチパチパチパチ。  かっこいいスーツやきれいなドレスを着た大人のひとたちがステージに現れると、大きな大きな拍手が沸き起こって、それはまるで僕のことも包み込んでいるみたいだった。  初めて連れて来てもらった大きな演奏会。  周りを見渡すと空いている席はひとつも見当たらない。会場いっぱいのお客さんがお行儀良く座ってステージの方を見ている。  たくさんのライトの光がキラキラした楽器にぶつかって、僕の方に跳ね返ってくるからすごく眩しい。  あの真ん中に立っ

『となりあわせ』 #aeuのショート

 毎晩あなたより後に寝て、毎朝あなたより先に起きては、隣で眠るあなたの顔や頭を撫でる。  ぐっすり眠るあなたは、そんなこときっと知らないし、どうして私がそうするのかもきっと解らないでしょうね。 *  喧騒の後の静けさは、闇とともに私の孤独を誘う。  食事中の会話、ガラステーブルに音を立てて着地する食器、味噌汁をすする音、見ていたドラマの声、携帯電話の通知音、上の階の子どもはあんな時間まで起きて今日も床を元気に鳴らしていた。  玄関の戸締まりを確認して、家中の灯りが消えて

『もう好きじゃないよ』【才の祭歌詞】(※審査対象外)#aeuの詩。

『もう好きじゃないよ』原案:ちょこ 作詞:aeu  無口なスマートフォン 鐘の音は鳴り響いてる  大きなツリー見上げ はしゃぐひと 俯く私  凍えそうな 手 赤くって  一人きりで 繰り返し  思い出すのは 君の言葉 「もう好きじゃない」なんて  胸を刺す 君の 静かな声  頬をつうっと流れては 冷たくなっていく 雪と雫  瞳に映った白 暖かい毛糸の生地  迎えに来た君の手 連れ出され 向かった先で  君の耳が 赤くって  全て解った気がして  想い巡らす 本当

『桜』 #aeuの詩。

 桜が好き  でも別に 桜は全然好きじゃなかった 「花見行こうぜ!」  真っすぐな言葉に 皆が集まる 「あたしも花見行きたいな」  でも別に 桜はそんなに見たくない  100円の桜 花見の写真  覗き込んで アドレスを聞いた 「あたしにも桜の写真送ってよ」  でも別に 桜の写真は欲しくない 「花見楽しかったな、桜好き?」  無邪気に笑って 君が尋ねる 「好きだよ、すごく」  でも別に 桜はそんなには好きじゃない 「桜を見ると思い出す」  翌年の春、君が言う 「去年の花

『いつも私はいちばん好きなひとにだけ好きと言えない』

 教室の窓から見える背の高い木が、恥ずかしげもなくその肌を晒して、まだ寒そうに枝を広げている。夏には緑の衣を纏い、冬になるとその衣を脱ぎ捨てる。にんげんとは反対だ…… なんてことをぼんやりと思う。静岡の方ではとっくのとうに桜が開花し、すでに一番の見頃を終えたようだった。  3年に上がる時にクラス替えはない。だから皆にとって今日は単なる春休み前最後の登校日、私にとってはこの学校で過ごす最後の日だ。  期待外れなほど普段と変わらない一日を過ごし、帰りのHRで一枚の色紙を貰った