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【CALメンバー紹介】浜名藤子と魔性の孔雀

♦️寄稿作「孔雀奇譚」の魅力♦️

令和時代の新しい純文学を発信する実力派作家集団CAL(Classic Anthology Library)は2022年に結成され、皆様の熱い御支援のおかげで来年でいよいよ2周年を迎えます。
この度、2024年2月12日に第3回配本となる総勢18名の作家陣営によるアンソロジー小説『マテリアル・ゴシック』をデザインエッグ社より刊行いたしました。
今回は出版記念といたしまして、CALメンバーで作家の浜名藤子様について御紹介させていただきます。
浜名様は「エブリスタ」にてFUJIKO名で耽美小説『おまえの首に口づけしたよ』を連載され、シリーズは現在10作目まで完結しております。
2015年には同作のサイドストーリー切なくて甘くてズルいでAmazonPOD大賞を受賞されました。
その後フリーライターとして韓国情報サイト『noritter』の記者として活動され、2023年に私たちCALのメンバーに仲間入りして下さいました。

浜名様は編集長と同じくゴシックホラー、怪奇幻想文学に対する親和性も高く、絢爛な晩餐会のテーブルに猛毒が含まれているような独自の世界観を御持ちです。
今回、CAL第3回企画「ノンヒューマン」のために御寄稿くださった短篇小説「孔雀奇譚」も、その流麗かつバランスの取れた文体を駆使して浜名様ならではのゴシック的悪夢を描き出して下さいました。
ニーチェに耽溺する屋敷の美少年、彼に恋する家庭教師の青年、そして魔性味溢れる義母の存在──本作に登場する誰もが不穏で危険な魅力に満ち溢れています。
驚かされるのは、登場人物の一人一人があたかも生命を与えられたかのように各自の個性を持ち、人物として見事に書き分けられている点です。
小説を書いていると人物同士が似通ってしまうこともありますが、浜名様の小説はまさに物語の中で各人物が独り立ちして息衝いている、そんな自然な気配を感じさせます。
本作の鍵を握るのは、タイトルにもあるとおり「孔雀」
浜名様は2017年に公開された孔雀の園でも「孔雀荘」という大邸宅で暮らす兄弟の物語を描いているので、彼女にとってこの唯美主義のシンボルとも言える鳥は重要なアトリビュートになっているのでしょう。

浜名藤子
作家
Classic Anthology Libraryメンバー
©Fujiko Hamana 2023

♦️作家 浜名藤子を形作った芸術家たち♦️

浜名様に影響を受けた作家をお聞きしたところ、シェイクスピア、ワイルド、コレット、サガン、コクトー、フィッツジェラルドなどの欧米の作家を挙げて下さいました。
特に小説を書く上で、ワイルドの『サロメ』や『獄中記』、コクトーの『恐るべき子供たち』には重要なインスピレーションを与えられているそうです。
浜名様の御言葉によれば、これらの作品には「若者の純粋さと残酷さ、美しさと醜さが共存する世界観と、ウィットに富んだ会話」が見られ、このような文学的特徴は御寄稿作「孔雀奇譚」にも確かに受け継がれています。
ここでコクトーについて、浜名様の文学的様式とも通底する興味深いエピソードを紹介しておきましょう。
イタリアの著名な映画研究者ジャンニ・ロンドリーノによれば、コクトーは『恐るべき親たち』を初演した1945年、あるパリの芸術サロンで一人の無名のイタリア人青年に出会いました。
この青年はコクトーから当時極めて前衛的な芸術として注目されていた映画の魅力をあますところなく教えられ、それ以後は足繁く映画館に通うようになります。
芸術界のホープであるコクトー一行と共に『嘆きの天使』や『結婚行進曲』を鑑賞した忘れがたい経験から、彼はやがて映画の道へと突き進むことになりました。
浜名様の小説に流れる耽美的な形式主義と、人物間が織りなす美が急速に悲劇化あるいは失墜する原理は、同じくワイルドやコクトーから影響を受けたこの青年──後の映画監督ルキノ・ヴィスコンティ──の後期作品に通底する一貫したテーマでもあります。
ここに浜名様の小説世界に内在している美とデカダンスの、危険で魅力的な共犯関係を見出すこともできるでしょう。

映画ではグザヴィエ・ドラン、フランソワ・オゾンの作品もお好きだと話して下さいました。
演劇では蜷川幸雄、萩尾望都の『トーマの心臓』の舞台化、宝塚の『ベルサイユのばら』など、劇場で直接体感して獲得されたものを文学に活かすことも浜名様の創作論の一つです。
美術ではラファエロやカラヴァッジョ、印象派のマネやモネも浜名様にとって重要な画家です。
とりわけマネの《フォリー・ベルジェールのバー》ミレイの《オフィーリア》には、訴えかけてくるものが強く感じられるそうです。
ミレイが驚嘆すべきリアリスティックな筆致で描いたこのオフィーリアには、浜名様の言う「純粋さと死の穢れ、そのすれすれの対比」が反映されていると思います。
オフィーリアが身を浸している水面は生と死、夢と現実の境界であり、この絵自体が美的なものの象徴であるオフィーリアの終末を表現しているのでしょう。
浜名様にとって、彼女たちは「普遍的な女性」を表しています。

エドゥアール・マネ《フォリー・ベルジェールのバー》
(1882年)
ジョン・エヴァレット・ミレイ《オフィーリア》
(1851年 - 1852年)

このような魅力的な感性をお持ちの浜名藤子様をCALのメンバーに御迎えすることは、私にとってかねてからの夢でもありました。
今回、同じテーマで小説を書き合うアンソロジー小説の形式でその夢を叶えて下さった浜名様に、メンバーを代表して心から感謝を申し上げたいと思います。

♦彼女の美学が結晶化した最新作「孔雀奇譚」を含むアンソロジー小説『マテリアル・ゴシック』についての詳細記事は、以下からもチェック可能です。


浜名様のこれまでの小説を読んでみたい方は、ぜひエブリスタのアカウントをチェックしてみて下さい。
XもFUJIKO様で更新されていますので、ぜひ彼女のフォローと御支援をよろしくお願いいたします。
最新企画の情報はCAL公式アカウントで随時発表していきますので、どうぞご期待下さい。

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