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言葉によって私たちの間に距離が生まれて

この記事は、わたしが友人と配信しているポッドキャスト「たるいといつかのとりあえずまあ」内で行っている、たるいの好きなものを紹介しているコーナーを書き起こし、要約したものです。

3月上旬のラジオ「森見登美彦の新作にまつわる話」


今回の好き:角銅真実『oar』


たるい)角銅真実さんのアルバム『oar』。持っているレコードの中で一番聴いたアルバムなんだよね。

いつか)え?そんなに?

たるい)そう。一時期エンドレスで聴いていた。角銅さんは打楽器専攻の方っていう話をしたけど、ピアノも弾くしギターも弾くしフルートも演奏する方で、この人の中で音楽を奏でるっていうことと感覚的な部分がすごい近いところにあるんだろうなと思う。音楽を通して自由になってる、みたいな。聴いているだけでこっちもうれしくなるというか。

いつか)うん。

たるい)僕は昔から、音楽は溶け合う力を持ってると思っていて。

いつか)人と人が?

たるい)人と人、その感情と感情と言えばいいかな。敷居をなくすっていうか、直接入っていけるっていうか、境界線をなくしていくイメージが音楽にはあるのね。角銅さんの音楽は複数の音楽家で一つの音楽を作る中でまさに溶け合っている感じがするし、そのことにポジティブで、喜びを見出していることが伝わる。
でもね、僕がすごく好きなのは歌詞なんですよ。

いつか)へえ〜

たるい)音楽は溶けあう力があるといったけれど、言葉は逆に区分けする力を持ってると思ってる、隔てる力があるっていうか、名付けるっていうことは、そのものを世界の中にカテゴライズするっていうことじゃないですか。

いつか)なるほどね

たるい)…ここから僕の角銅さんラブタイムなんだけど。

いつか)来ました。Love time.

いつか)角銅さんの音楽は言ったように溶け合ってみんなでその場を作ることの喜びに満ち溢れてるのに、言葉はめちゃくちゃ独りなんですよ。
このアルバムの最後に言葉がある曲が、Lantanaという一番好きな曲なんだけど、「さようなら私の大切なものたち」って言って終わっていくのよ。「さようなら私の大好きなものたち ぜんぶ」って言って。

いつか)うん

たるい)私とあなたが全然違うっていうことと、私とあなたは一緒に音楽の中で溶け合うことができるっていう幸せと、それが角銅さんの中で矛盾なく共存している。なんかそれって、人間としてうつくしいし、途方もない魅力だなと感じる。
なんか、なんていうの?私とあなたはどこまでも溶け合うことができるけど、「私は分かり合わない」と選択してる感じっていうか。ただ「分かり合えない」っていうのではなくって。「分かり合わない」と選択している感じ。いや、うまく言えないな、その個人を保っている感じが魅力的なんだよな。

いつか)うーん、なるほど。

たるい)「oar」は僕の「たとえそれが最後だったとしても」って一番最初に作った本の、本当に中核をかたちづくってくれたアルバムだった。この本は、フランスの昔の映画を見てたら、fin.ってすぐ出て映画が終わったと。そういう最後でもいいのかもしれないって思ったという話が終盤にあって、それがタイトルになってるんだけど、なんかそういう、温度を持たずに、スッと消えていく感じ、そういう冷たさというか孤独感みたいなものは、ずっとこのアルバムを聴きながら思ってたことだったんだよね。

いつか)なるほどね。

たるい)そう、だからね、この人がいなければ本も作れなかったし、とか、いろいろ思うと愛が溢れてきちゃう。

いつか)それは溢れるわな。

たるい)うん。

いつか)言葉と音楽の感覚の違い、面白いね。言葉のカテゴライズするっていうのは、世界をカテゴライズするの?それともあなたとの関係をカテゴライズするの?音楽はあなたと混じり合うわけでしょ?言葉はあなたと混じわるの?あなたとの関係をも分かつの?

たるい)僕の感覚だけど、言葉で「私」っていうものを作った瞬間に、私とあなたは溶け合っている状況じゃなくなるよね。分離する。もし、言葉で私とあなたが同じかもしれないって思うときには、ちょっとトリッキーなのよ。メタファーを使うんだよ、だいたい。

いつか)なるほど。

たるい)まるで〜みたいにとか、ある種の物語であったり、体験みたいなもの、第三者的な場所を作ることによって、同じかもしれないっていうふうに思えるっていうトリッキーな動きをしなきゃいけないんだけど、音楽はそれが直通便で溶け合うことができるっていうのが僕の感覚。

いつか)へー。おもろ。

たるい)言葉は距離を作るから。「oar」の1曲目December 13に「距離のない世界に生まれていたら、あなたとはきっと会うことはなかっただろう」っていう歌詞が出てくるんだけど、ここを聴いて改めて言葉によって私たちの間に距離が生まれて、だからこそあなたがあなただとわかるんだって思った。言葉っていうのは基本的にはやっぱり分かつ機能を持っているから。

いつか)なるほどね。

たるい)うん。おすすめコンテンツ、今回は角銅真実さんで「oar」でした。


今回の好き
「oar」角銅真実



ポットキャスト「たるいといつかのとりあえずまあ」
作家の垂井真とオーケストラ奏者(Vn)の山本佳輝(ラジオネーム:いつかのコシヒカリ)。東京藝術大学で出会った1997年1月31日生まれのふたりが、お互いの活動の近況や面白かったコンテンツの紹介などを通して、今世をとりあえずまあ楽しもうとしてる番組


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