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溌剌とした目で「どの豆にしますか?」

一番前の一番端の席で「JUNK HEAD」を観て、グロテスクなものが苦手なわたしは「ああ、ヒェ〜〜」とか思いながら、それでも割と怒涛のように繰り出される下らないボケの数々に肩を震わせまくっていたのだけれど、隣のカップルの女性の方は「こんなキモチワルイなんて聞いてないなんで最前列でこんなもの観なくちゃいけないの帰りたい」モードに絶対なっていて、それが不憫だった。男性の方も、女性の方も、すべからく不憫である。

映画を観終わったら、休日は人がいない所にとにかく行きたいので、通っていた教習所のある駅へ向かい、よく入っていた珈琲屋に入った。豆の選択肢がありすぎて、溌剌とした目で「どの豆にしますか」と聞いてくるポニーテールのアルバイトに「爽やかなものが飲みたいです」と「どうか?こんな感じが無難か?」と思いながら恐る恐る言ってみると、じゃあ、ということでメキシコの豆を使ったアイスコーヒーが出てきて、とても美味しかった。

帰り道は、バスで帰れる駅までゆっくりと線路沿いを歩いた。途中明らかにカミキリムシのシルエットが飛んでいて、「ゴマダラかなあ…」とか思いながら車道を突っ切って追いかけたら案の定ゴマダラカミキリだった。木にくっつけて写真を撮ろうと思ったらつけた途端すぐに飛んでいってしまった。

虫を追っかけているとわたしは昆虫博士になりたい、なんて言っていた小学生のころにタイムスリップしてしまう。そんな趣味を一つでも持っているなんて結構幸せなことだよなあ、とつくづく。

夜、親戚同士でズームを開くというので、ちょっと顔を出したら、画面の向こうでおばさんとおじさんが二人して老眼鏡を頭の上にかけていた。リンクの送り先がわからないとか、アドレスが違うんだ、とか二人で言い合っていて、わ、結婚ってすごいな、と感嘆した。

今日は一日を通して王舟アルバム「Wang」を聴く。いつだったか、最初このアルバムを聴いたとき、王舟って人は本当に音楽が好きで、誰がなんて言っても、世界がどうなろうとずっと音楽をやるんだろうなあ、って思えて、その「この人には何を言っても無駄だ」感というか、ずる賢さとかを超えて音楽だけ本当にずっとやってそうな感じが、わたしにはとても嬉しかった。そういう人がいてくれると、わたしは迷っていんだな、って思える。誰が言っても聞かない程「好き」が全面にあふれている人がいれば、じゃあわたしはその人みたいにならなくっていい、って思えるっていうか、中途半端であることもまた、世の中の価値なんだよ、って、消去法的に気づけるというか。

最初の曲tatebueから、最後のThailandに至るまで、ずっと静かな喜びに満ちていて、今日もまたそんな日だった。不安とか色々、膨らませようとすれば出来るには出来るんだけれど、わたしは今日それなりの形で向き合えたと思う。一人でいい日を作れたのは、久しぶりの成事である、ありがとう、諸君。
不憫なカップル、ポニーテールのアルバイト、ゴマダラカミキリ、おじさんおばさん、そして、誰が言っても音楽を辞めない王舟さん(妄想)。

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