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放課後

歌が重なって叫んでいる 隙間を縫うように君は手足を揺らし 仕事の事を思い出しても忘れたふりする アフターアワーズ

シャムキャッツ「AFTER HOURS」

2024年3月21日から、音楽レーベル・出版を中心に活動する制作プロジェクト「放課後」を発足しました。"発足"というと何か新しいことのようだけれど、以前から活動していたレーベル放課後スタジオと自著作の出版をこれからも続けていく、という宣言のようなものです。

社会人になってはじめた放課後スタジオや書籍の出版は、自分にとっての精神的な逃げ場所のようなものでした。仕事を終えた後にある自分を取り戻す時間、そういう意味を込めて、放課後スタジオ、と名付けたレーベル。どうしたら仕事を辞められるだろう。そればかりを考えながら過ごす毎日の格好の逃避先としてその場所はあり、気がつけば給料のほとんどを注ぎ込むのが当たり前の生活になっていきました。

去年のことです。レコーディングと書籍の出版が重なったことで手持ちのお金がほぼなくなり、お餅をちまちま食べているところに来た家賃の催促の電話の冷たい声を聞いたときに、ふと、「わたしは何をやっているのだろう」と思いました。特に放課後スタジオは、アーティストの活動をサポートする場所です。なぜ自分の生活すらままならないのに他人をサポートしているのだろう。そう思うと夢から覚めたように、リリースを出させてもらっているアーティストや、録音してくれている友達に、放課後スタジオを辞めようと思う、と伝えていきました。「あなたがそういうなら仕方ない」という人も「辞めるなんて言わなくていいじゃん」という人も、みんながそれぞれの温かい言葉をかけてくれました。

活動を止める、そうぼんやりと決めたまま仕事は繁忙期に突入し、3月まで豪速で通り過ぎていきました。その合間を縫い、日記祭や文学フリマ、放課後スタジオでリリースさせていただいているミレーの枕子さんのライブなどに足を運びました。そこで、わたしは「活動を知ってくれている人」と出会うことになります。
わたしの本の好きなページを教えてくれる人、レーベルのCDへのわたしなりのこだわりに気がついて、わたし以上に明確にその価値を言葉にしてくれる人、中には単なる褒め言葉ではなく、嫉妬や悔しさを滲み出しながらそのよさを語ってくれる人もいました。それはとても嬉しかったです。たぶん滲み出るものって本当だから。

わたしの「放課後」が単なる社会からの逃げ場所ではもうなくなっている、と、思い至りました。「放課後」はすでに、わたしだけの制作のかたちになりつつあったのだと。

会社に入ってもうすぐ5年目になります。あれだけ嫌だった仕事の内容にも少しずつ慣れてきて、今はもう、「とにかくやめたい」という強い気持ちはありません。逃避行ではなく、生活として、わたしはずっと放課後にいようと思うのです。

放課後という場所で、これからどんなものが生まれるのか。楽しみにしててください、と意気揚々と終わろうとしたけれど、茫漠とした不安を抱えているのもまた確かで、けどまあとにかく、これからも少しずつ淡々とものを作って行けたらと思います。


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