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映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』感想 園子温監督の次回作にご期待ください。


 2021年のベスト映画を決めるのは難しそうですが、ワーストはぶっちぎりで確定です。映画『プリズナーズ・オブ・ゴーストランド』感想です。

 サムライタウンの銀行を襲撃したヒーロー(ニコラス・ケイジ)は、強盗に失敗して街を牛耳るガバナー(ビル・モーズリー)に捕らえられ、投獄されていた。
 ある夜、ガバナーのお気に入りの娘であるバーニス(ソフィア・ブテラ)たち3人が、ガバナーの支配から脱走して、ゴーストランドと呼ばれる禁止区域で消息を絶つ。
 ガバナーはヒーローの鎖を外し、自由と引き換えにバーニスを連れ戻すように命令する。期限は3日間。ヒーローは両手両足と首元、そして両方の睾丸に時限式爆弾を仕掛けられたボディスーツを身に着け、バーニスを求めてゴーストランドへ向かう…という物語。

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 『愛のむきだし』『ヒミズ』『冷たい熱帯魚』で知られる園子温監督のハリウッドデビュー作品。主演がニコラス・ケイジというのも、発表時には大きなインパクトがありました。ただ、その製作発表時のような盛り上がりは、公開時には聞こえて来ず、(ひょっとして、地雷作品かな…)と恐る恐る映画館へ足を差し伸ばしてみたところ、見事に身体を粉々に吹っ飛ばされました(もちろん、悪い意味で)。地雷作品というか、埋められてもいない爆弾を勝手に踏んづけて、爆発した感じ。

 僕が映画好きになったきっかけは園監督の『愛のむきだし』なんですよね。もともと映画自体は好きでもレンタルとかでたまに観る程度だったのですが、この作品の4時間を、映画館で味わう体験が、音楽ライブの衝撃のように感じられて、それ以来、映画館で観るという行為を大事にするようになりました。
 とはいえ、カルト作品やエンタメ、バイオレンスなど幅広いジャンルに手を出す園子温作品は、当たり外れも大きい監督というのも理解しています。心筋梗塞で倒れた後は、配信作品などの発表はありますが、劇場公開は久々ということで、お見舞い的な感じで観に行こうと決めておりました。とはいえ、ここまでのD級作品とは思いもよりませんでした。

 物語そのものや、世界観は『マッドマックス』的なものになっていて、オリジナリティは無いんですけど、それは承知の上というか、最初からある程度、B級映画な雰囲気を狙っているように思えました。ハリウッド資本の割には、安っぽい特撮的な映像で、80年代のアングラ作品のような雰囲気です。
 世界観がB級なのはいいんですけど、特にそれをねじ伏せるエネルギーがあるとか、スピード感があるとかでは全くないのが致命的なんですよね。何しろ、前半はヒーローが事故ったり、負傷したりして、ダメージを負う度に気絶してばっかで、なんにもしていないんですよ。そもそも、このヒーローという主人公も悪人とされていますが、どういう特徴のキャラなのか、今一つ伝わってこないですね。ニコラス・ケイジという見た目以外の印象が無いんですよ。
 さらに、その気絶中に見る幻想的な夢の映像が延々と繰り返されるのも観ていてキツイものがありました。ホドロフスキー作品のような前衛的手法なのかもしれませんが、チープなB級作品の空気では、ただ単に話が進まない時間のように感じてしまいます。

 寺山修司のアングラ演劇のような舞踏や、テリー・ギリアム作品のような美術セット、毒々しく鮮やかな花街の雰囲気など、園子温監督の嗜好の幅広さを感じさせますが、そのどれもが見事に調和しておらず、ただ並べただけという作品なんですよね。
 企画自体は、クレイジーなジャパンカルチャーを、バカバカしいほどのエネルギーで撮ろうとしたのかもしれませんが、先述のようにテンポが致命的に悪いので、ツッコミながら観るという楽しみ方も出来ないんですよね。間が悪いボケがずっとスクリーンで垂れ流されている感じでした。正直、一体何がやりたかったのか、謎です。

 唯一のメッセージ性を感じ取れるのが、ゴーストランドが原発事故で禁止区域になった場所という設定ですが、『ヒミズ』『希望の国』から続く「震災を描く」ということなんだと思います(この設定もヒーローが見る夢で説明されるので、イマイチ信憑性が無いんですけど)。けれども、この描き方自体が正直アップデートされていないものだと感じられましたし、何かこう、消費されている感じがしてしまうんですよね。今だから出来る震災後の描き方が、もっとあるはずなんですよ。

 バカバカしい鎧武者の亡霊とか、ゴーストランドの住人が整備しているデコトラとか、チープながらもワクワクする美術が結構好みだったんですけど、これらが全く活かされないまま物語が終わるのもひっくり返りましたね。
 ゴーストランドの住人とも解り合ったので(その理由もよくわかりませんが)、デコトラが爆走しながらサムライタウンを攻め込むかと思いきや、ヒーローとバーニスの2人だけというのも、肩透かし過ぎて脱臼するレベルです。

 唯一良かったのは、ヤスジロウ(坂口拓)とのチャンバラで、ヒーローを襲う敵を斬りながら、自身もそのままヒーローに斬りかかるというのがちょっとカッコよかったです。きっちりとした設定で、他の作品で使って欲しいですね。

 女性が自由を勝ち取るフェミニズム的なメッセージも、取って付けた感満載ですね。園子温監督の本当の言葉ではない気がします。元の脚本が悪すぎたのかもしれませんが、結局、企画もの作品の域を出ていないんですよね。ハリウッド資本で駄作を撮るという、園監督一流のブラックジョークか、反骨精神なのかもしれませんが。

 いずれにせよ、園子温監督が元気に映画撮ってくれていて良かったです。個人的には、『気球クラブ、その後』などの静かな作品でも傑作が撮れる監督だと思うので、そっちの方面を観たい気がしています。


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