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誘 拐 毎週ショートショートnote

外に人影があった。
「助けて。助けて」必死に叫んだ。
ガラスが割られ、私は何日かぶりに外の空気に触れた。
私はケガをしていた。

「ここは?」
「そのハンドルでベッドを下げてください。高すぎるでしょ?」
ベッドサイドのハンドルを回してもビクともしない。
「ああ、それ反対に回すんです。ここはアメリカ製保健室で左ハンドルなんです」
壁の黄色いナイロン糸に目が釘付けになった。私を拉致した男の手袋には、まさにその糸でホツレを直した跡があった。
男はこちらに背を向けて消毒の準備をしている。
私はドアを引き千切るように開けて走った。
 
私は誰かにぶつかり、木の匂いのするその男の陰に隠れた。
「おい、その女性を渡せ」追ってきた男が言った。
「お前は誰だ」
「渡せ」追ってきた男の手には銃が握られていた。
「ほしかったら奪ってみろ」
銃声が一発。木の匂いの男は倒れた。
「今、犯人はあなたを探しています」
肩を撃たれた木の匂いの男の手袋は私を拉致した男の手袋だった。
       410字

たらはかに 様
今週もお願いいたします。


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