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青ざめる薬

長い横断歩道をおばあさんと渡った。
案の定、あと5mというところで赤になったが、やさしい車は動かなかった。

ホッと息をついて「お気をつけて」と立ち去ろうとした時、「これ、青ざめる薬です」と誰もが知っているもののように渡された。
包み紙にー即効 持続時間は2~3時間ーと走り書きがあった。

それは今も私のバッグの中にあり、その存在が脳の半分を占めている。
いったいこの薬をどう使えばいいのか、さっぱり見当がつかない。
薬をくれたおばあさんにもう一度、とは思うが、青信号のうちに渡り切れない横断歩道を日常的に使っているとは思えない。

繁華街で喧嘩に出くわした。
青いシャツの男が圧倒的に攻撃しているように思われたが、警察が到着した時には、青シャツは路上にへたり込んでいた。
一方の男はやられっぱなしで、まだ鼻息が荒い。
警察官は鼻息を羽交い絞めにして連行していく。
青シャツはシャツと同じ顔色をして、救急車を待っていた。

天気の良い日の昼下がり、銀行の窓口を訪れた。
番号札を取り、壁際に立った。
今日は給料日とあって混雑している。

女性の短い悲鳴が聞こえたと思うと、3人の男がなだれ込んできた。
3人は何も言わず大きな袋を行員に渡すと、銃をカメラに向けて発射した。
爆音とともに3台のカメラは跡形もなく砕け散る。

すべてが現実離れしていて、映画を観ているようだ。

一人は客側に向いて銃を構えた。
私はバッグをまさぐり、青ざめる薬を口に入れ、そこに横たわった。
目の前に、今まさに山野を越えてきたといった風貌の靴がある。男は銃口で私を小突くと、襟首を掴んで入口まで引きずった。
そして、例の靴で私を外に蹴り飛ばしたのである。


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