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朧月キュビスム  シロクマ文芸部

慈照寺銀閣へのいざない
手前が銀沙灘(ぎんしゃだん)
その奥にあるお椀を伏せたようなものが向月台(こうげつだい)
そして銀閣
銀閣の前には池が広がります。木立の向こう。

本文 【およそ666字】

朧月が東山にポッと出ている。
東山魁夷か!と突っ込みたくなるほどのこの美しさを銀閣の二階の窓から覗く。障子を上げればこの朧月。あまりにも、あまりにもで震えがくる。虚空の感傷はとめどない。
 
僕の目の前には銀沙灘に煌めく月が出ている。しかし実際のところ、今宵の朧月では照度が低すぎるだろう、などと御託を並べてみる。ないものねだりができるのが妄想のいいところではないか。
 
以前は北山の金閣の中にも入れたそうだが、あれは金閣炎上よりも前の話だ。炎上の折はさぞかし美しかったであろう。頽廃の美、滅失の美は何ものにも代えがたいほどの興奮と感動があるはずだ。と炎上する発言をしてみるのも一興。
昔は良かった。と、どこかで見た写真が語りかける。私のような魔物とて、文化の長い歴史の中のほんの一瞬を垣間見るだけなのだ、と知ったようなことを言ってみる。現実逃避ほど心地よいものなし。これが魔物の魔物たる由縁。
 
私が銀閣の窓から見た月、あれも幻だったろうか。やけに鮮明な臨場感を持つ記憶が脳髄をノックする。
ただ、あの銀閣に一般客の私が入れるのか?とはいえ私は祇園・八坂の塔に入り、てっぺんまで登ったことがある人間。これは至極硬い事実としてある。なにが起きてもおかしくはないのが世の常。世の幻想。
 
ああ、銀沙灘、向月台。
慈照寺銀閣は月を愛でるためにあるもの。銀閣のあの二階から手を伸ばしたところに月は出るのだから。
今宵の朧月を向月台の上に据えてみる(πの値を代入してみよ)。なんとも怪しげでせつない風情ではないか。
ところでこの春霞。はるか大陸から押し寄せたPM2.5でできているとか、なしだぜ。


小牧部長さま
今週もよろしくお願いいたします。


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