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祈りの雨   山根さんの企画


祈りの雨   【421字】

隣の中華屋のトタンの庇が大きな音を立てている。
僕にはわかっていた。昨日、「祈りの時は満ちた」との通信を受け取ったからだ。
 
僕は普通のサラリーマンだと思う。他の人がどんなサラリーマンをやっているのか、僕は知らない。でも僕は普通だと思う。
 
僕は画面の向こうに我が社が扱っている歯磨き粉の効果・効能について説明する。それは僕が開発したことになっているのだから、一番詳しいはずだからだ。
僕は誰かからこの歯磨き粉を渡されただけ。効能なんて全く知らなかった。でもこの歯磨き粉について話を始めると、それは勝手に口をついて出てくる。
 
僕は他のことは何も知らない。ただ僕に与えられた祈りの言葉「尊い命を」というこの文節以外は。
 
今日は祈りの日。仕事はしない。着信を無視してただただ祈る、それだけの日。幾日続くかもわからない祈りの日。
 
 
やがて雨は上がり、空は青く晴れ渡った。僕が見下ろす星は水に満たされていた。
そこに浮かぶ一艘の船を僕はただただ見守るしかない。
       了


山根さん
今回もよろしくお願いいたします。


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