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配偶者同行休業制度は利用すべきか

 この記事では配偶者同行休業制度について、その制度利用の決断に至るまでの判断材料と思考を実体験をもとに説明します。この制度は外国で勤務等をする配偶者と生活を共にすることを目的とした休業制度ですが、制度そのものの利用数が少ないため情報が限られています。私たち夫婦は塾考の末制度の利用を決めましたが、情報がとても少なく意思決定が困難でした。本記事が似た境遇の方の参考になれば幸いです。
読者対象: 自分もしくは配偶者が海外で働く可能性のある人、特に研究者

モデルケース
私: 海外大学の任期付きポスドク(研究員)
配偶者: 公立中学教職員

制度概要

 配偶者同行休業制度は仕事と家庭生活両立支援を目的として2014年に制定された制度です。配偶者が外国での勤務事業の経営など個人が外国で行う職業上の活動外国の大学等における修学を目的として6か月以上滞在することが見込まれるという条件のもと、休業制度を利用することができます。この制度は非常勤職員、任期付き職員、条件付き採用中の職員、勤務延長職員以外のすべての公務員が利用することができ、また一部企業でも制度の導入が進んでいます。
 休業は最大3年間認められ、配偶者同行休業期間中も公務員の身分を保有し兼業が認められる一方で、各種税金(社会保険料)の支払いが必要になるほか育休や病休と異なり給与の支給はなく、また退職金手当計算の基礎となる勤続期間から全除算されることになります(育休、病休の場合1/2除算)。

休業or退職

この制度の対になる選択肢は退職です。退職の場合期限の上限がなく、また税金の支払いもする必要がありません。したがって、休業制度の退職に対するメリット・デメリットは、

  • メリット

    • 休業後、元の職位に復職できる

    • 産休・育休への途中変更が可能

  • デメリット

    • 税金(共済年金、共済保険)の支払いが必須

    • 最大年限が決まっているため、3年以上の滞在は不可能

となります。そこで次に同行休業中の必要な支出について、私たちの例で具体的な金額を説明します。

休業時の実際のコスト

・住民税: ~50万
住民税は、その年の一月一日に住民登録をしていた市町村が課税します。したがって、休業を開始する時期を12月末日にできれば、住民税の支払いは必要ありません。私の配偶者は教員故に年度末の3月まで休職に入れず、前年の住民税を全額支払う必要がありました。

・税金(共済年金、共済保険料): ~7万/月:
基本的に共済年金および保険料の支払いは免除されませんが、途中で育休に切り替えた際には全額の支払いが免除されます。また、海外で医療サービスを利用した際、健康保険を日本帰国時にさかのぼって請求することは可能ですが、その可否は薬や治療法が日本の認可基準に適しているか否かに左右されるため、どこまで認められるかは未知数です。

・個人保険: ~3万/月:
個人的に積み立てている保険・金融商品などは、もちろん解約が可能です。しかし一般的には早期に解約することを想定していないため、支払いを継続したほうが利益を享受できます。また、証券口座は日本国内での住民票が必要になるので積立NISA等の証券口座は海外在住では利用できず、解約する必要にせまられます。

以上が同行休業の際に必要なコストで、主にポイントとなるのは税金です。合計すると一年あたり100万円程度の支出になるので、この金額が見合うかどうか、というのが休業制度を利用する上での一番大きな考慮事項になると思います。

意思決定プロセス

二人で意思決定をするにあたっては、まず以下のように前提条件を整理しました。

・滞在期間
私の任期が6年あり、同行休業制度の上限を超えている。したがって共に生活をするためには1. 任期内での帰国, 2. 退職, 3. 育休の利用のいずれかが必要。私は任期の最大限海外に滞在したい。

・帰国後について
復職意思は強く、可能であれば現職に復帰し定年まで働きたい。一方で帰国後の私の就職場所が未定なため、もし遠方なら退職して別の場所での就職となるので号給が下がってしまう。

・二人のキャリアについて
特に私が学振や任期付きポスドクといった不安定な雇用制度のもとで働いているので、配偶者の福利厚生そのものがリスクヘッジになっている。

このことから、取り得る選択肢は、休業制度を利用するかどうか、任期内で帰国するかどうか、子供ができるかどうか、私の帰国時の就職先が配偶者の勤務地に近いかどうかで場合分けをして以下の通りになりました。

1. 休業制度利用->育休利用->共に帰国し私が近くの勤務地に就職して復職
2. 休業制度利用->育休利用->私が遠方の勤務地に就職して配偶者が退職
3. 休業制度利用->任期内帰国->近くの勤務地に就職して配偶者が復職
4. 休業制度利用->任期内帰国->遠方の勤務地に就職して配偶者が退職
5. 休業制度利用->休業限界年限で退職->共に帰国
6. 休業制度を利用せずに退職->共に帰国
7. 2, 4のケースで配偶者が退職せずに別居婚

そして、二人で話し合った結果として以下の順序付けを行いました。
1 >> 2 >> 3 >> 6 >> 5 >> 4 >> 7
このとき、休業制度を利用しない選択肢6は順序のちょうど真ん中に位置しました。このことは休業制度の利用が必ずしも満足のゆく結果をもたらすことを意味しませんでしたが、ベターな選択肢がその上にある以上はリスクを取って選択しようという結論で休業制度の利用を決めました。

まとめ

 配偶者同行休業制度の概要と実際の意思決定の過程を説明しました。実は当初この制度の存在を知らず、配偶者には退職してもらう前提で渡航してもらう予定だったのですが、手続き中に偶然その存在を知り慌てて検討することとなりました。配偶者の職場でも例が少ないためか制度の案内などは無かったそうで、各種制度は知識があるだけで人生の選択肢が広がるものだなと実感したところです。
 私見ですが、同行休業制度は時期を調整できるのであれば育休と重ねるのが最もそのメリットを享受しやすいです。30年後の日本政府より手元の外貨預金の方がまったくもって信用出来るので、年間100万円を日本政府に入れるという負担は心理的に大きいですが、復職出来た際の利点が大きく捨てがたいという点において博打をする気になりました。この決断が正しかったかどうかは5年後の帰国時に改めて検証したいと思います。


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