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抱けなかった人

 好きなお笑い番組の話や、芸人の話で夜な夜な電話やラインをしていた人。一つ年下の彼女とは、知り合って話していくうちに仲良くなり、ご飯を食べに出かけたり、ドライブに出かけたりした。

 秋も深まった頃、紅葉を観に行こうと誘った。4回目のデートだ。
 1ヶ月ぶりに会った彼女は髪の毛が伸びていて、手に軽い怪我をしていて、相変わらず笑顔が無邪気な人だった。

 はっきり言って、その時の僕は完全に惚れていた。理由らしい理由は自分でもよくわからないが、
 きっと、自分の好きなものを好きだと言える芯の強さや、自分がこれまで何度か男性と遊んできたことなど、僕の気持ちも考えることなく言ってしまう無鉄砲さ、そんな飾らないところが、素敵だった。

 

 小一時間ほど車を走らせ、紅葉スポットに到着した。いつもは賑わう、その場所も閑散としていて、
夕暮れの中での会話は、乾燥した冷たい空気も相まって、声が耳に直接響いてきた。

 10分ほど歩いて、紅葉スポットに着き、紅葉を眺め「めっちゃ綺麗ー!」という彼女が本当に眩しかったし、羨ましくもあった。 
 綺麗なものをみて、その感情をそのままなにも変換することもなく、口に出す素直さ、純粋さ。

 それに比べて僕は、口では「綺麗だね」と言ってはいるものの、本当に、そう思っているのかと言われたら、答えはノーだ。
 
 なぜなら、目の前にいる彼女のことで頭がいっぱいで、次はどこにご飯に行こうか、どんな会話をしようか、そんなことばかり考えて、心ここにあらずだった。正直、景色なんてどうでもよかった。


 車を止めてあるパーキングまで戻る時、手を繋いだ。 きっと周りからは、カップルに見えていたと思う。そのくらい僕たちは街並みに自然に溶け込めていた。

 一緒にディナーを食べ、彼女の住む街まで車を走らせた。2人でゆっくりしたいと言われて、近くの公園に車を止めた。そこでハグをした。

 これまでの僕たちの関係なら、きっとこのままホテルに行くこともできたと思う。でもどうしてもできなかった。

 22歳の僕は自分の弱さと葛藤していた。

 30分ほど話したあと、彼女を最寄りの駅まで送り、さよならした。
 彼女の期待に応えられなかった僕はその時、なんとなく、もう会えない気がした。

 後日、彼女からは連絡を控えたいと言われた。それ以来、連絡も会うこともしていない。



弱い自分、殺すために今日も現在進行形で頑張ってる。

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