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暑くない夏

山川方夫
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青空文庫より、
山川方夫の「暑くない夏」
を読みました。

《ふわっとあらすじ》

大学時代のクラスメイトで
友達でもあった彼女が
突然高熱を出してそのまま
寝たきりになってしまったのは
1年前のことだ。
何百万人に一人という奇病だった。
医者は余命1年だと言った。
命の期限がもうそこまで来ている。

「夏が来たのね」
暑さをまったく感じない彼女は
病室の窓から見える空の様子で
夏を感じとっていた。

「うらやましいよ、暑さ知らずだなんて」
と彼は明るく振舞って言った。
「そのうち気温を一定にすることができて、
この世から夏や冬がなくなってしまうかもしれない、
私、そんな未来の国に住んでるみたいね」と
彼女は笑って目を閉じた。

もう、夏がどんなものなのか
暑いとはどんなことなのか
彼女には分からない。
彼女は眠りについた。

彼はこれが最後かもしれない
という気持ちで彼女の顔を見つめて
病院を後にした。

夏の街を歩きながら
不意に彼は恐ろしくなった。
なぜだかまったく暑さを感じないのだ。
彼女と同じく、彼にも夏がないのだ。

すると中年の女性二人が
「変な天気ですわね。」
「あら、雨だわ。」と
話しながら通り過ぎていった。
彼は息をのんだ。
夕立が来るのだった。

雨が降り出した。
彼は自分にも夏がないと
思った感覚をかみしめた。
それが、彼女の住む
「未来の国」なのだと、
彼女につなぐ、ただ一つの
手がかりなのかもしれない。

更に激しく降り続く雨の中
彼はその中を歩いて行った。


《語句解説》

気密室: 気体をまったく通さないように、
    外気との連絡を遮断したへや。
奇病:珍しい病気。また、
   原因や治療法のわかっていない病気。
五官:目、耳、鼻、舌、皮膚の総称。
戦慄:恐ろしくてからだが震えること。

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音声配信アプリstand.fmにて、
「しんいち情報局(仮)」の
「朗読しんいち」を
担当させていただいています。

しんいち情報局(仮)
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