漫画原作ドラマ大嫌い人間の私が、脚本家の端くれとして、いま書いておきたいこと

ここにあまり真面目なことを書くつもりはなかったのだが、さすがに例のニュースはショックだったので書いておきたい。

私は漫画が好きだ。漫画が好きな人には、好きな作品が実写化すると聞いて、嬉しい人と嬉しくない人がいる。私は典型的な嬉しくない人だ。99%見ない。私はその漫画が好きなのであって、それとストーリーが同一なドラマも好きだとは限らないし、むしろそんなドラマなんかだいたい嫌いに決まっているからだ。それが何故なのか自分の中では結論が出ているのだけど、今はあんまり関係ないし長くなるので省略。

さて、私は自称脚本家だ。脚本家の連盟やら組合やら協会やらがあんまり好きじゃないし売れてもないので自称脚本家だ。そんな私は、むかしむかし、とある漫画原作のドラマの脚本を書く人を探しているという某テレビ局(地上波)のプロデューサーと引き合わされたことがある。そのためにプロット書いてきてよ、と、仲介した人に言われたので、それを用意して。

私は漫画原作のドラマが嫌いなのだが、小劇場で楽しく遊んでいただけの脚本家(売れるための努力や工夫などいっさいしていない)にやってきた大チャンスというやつだ。

私は、とりあえず、原作の漫画を購入した。それを読んでから断っても遅くはない。テレビとかの脚本を書いてバイトをしないで暮らしていく生活にも憧れていたし(その後、憧れなくなった)、自分のこだわりなんか捨てたっていいと思っていたし、なんなら俺なら面白くやれるでしょくらいの勘違いまでしていただろう、当時の俺は、バカめ。というわけで、それを読んでから断っても遅くはない、とか自分に言い訳しながらやる気まんまんだったわけだ。

で、漫画を読んだうえで「やってみます」と答えた私が用意するプロットへの注文は「原作の主人公のキャラクターが弱いから何か追加の設定をつけてほしい」というものだった。この時点で、こういうことを言う人がいるわけである。この時点では脚本家が誰になるかも決定していないのに。

で、当たり前だが、どんな案を考えても原作の面白さが損なわれるし、漫画好きとしての俺が許せないものばかりだ。それでもあれこれ考えて、たとえば主人公ではなくこっちのモブ的なほうに強烈なキャラクターを入れてみるとか、そういうオーダーとは少しズレる案をいくつか考えて、そのプロデューサーと会う日に持っていった。

私のプロットはめちゃくちゃ簡単に否定されて、私が入室した2分後には、麻布(だか赤坂だっかまあそういう業界っぽいところ)のクラブのオネエチャンの話が始まり、それを5時間くらい(体感時間です、実際には15分くらいだったと思う)聞いて、その日は帰ることになって、帰り道で私はその仕事を皮切りに所属することになっていた事務所の人、私だけでなく劇団員全員を事務所に入れてくれるといっていた私のマネージャーになる予定の人であり、この打ち合わせをセッティングした人でもあり、麻布のチャンネーの話をプロデューサーと楽しそうにしてた人でもあるこの人に「できねえっすわ」と言って、すべてを捨てたのだった。

数ヶ月後、そのドラマは無事に放送されたのだけど、主人公のキャラクターにひとつ強めの要素が足されていた。プロデューサーの希望どおりになったのだろう。すっごいつまんなかったから1話しか見なかったけど。まったく世の中の話題にもならなかったので、そいつの指示が正解だったとは今でも思えないが、まあそういうふうにできているんだな、ということを体験できたという意味では勉強になった出来事だった。

別にすべての原作ありドラマがこんな作り方ではないとは思うし、このプロデューサーもいい大学を出てテレビ局という大会社に就職し出世したが面白いドラマを作る能力を持ち合わせていなかっただけで悪いやつじゃないかもしれない。

ただこのように、はなからこういうオーダーが出てくることは実際に余裕であるし、これを断れない人もたくさんいるのだ。私だってたまたま「いつかテレビドラマの脚本を書くのが夢です!」みたいな人ではなかっただけであり、夢です!の人は採用される案を一生懸命考えるだろう。

ところで、書いた演劇の脚本を、私ではない別の人が演出するということがある。これは原作者の気持ちに非常に近い。
実際に何回か脚本を提供したことがあるのだけど、報連相などまったくなく改変する人はいる。余裕でいる。
勝手に(ゴミみたいな)セリフを足されていたときは、私がそれを書いたとお客様に思われることが屈辱でしかなかったことを覚えている。30席の客席で上演されただけで、あれだけ嫌な気持ちになるのだ、もしそれがテレビで放送されて何百万人見ていたらと想像してみるが、ちょっと想像できない。
とにかく、すでにある作品を改変することに、躊躇がないというか、作者に対して悪いとか、作者が嫌な気分になるかもしれないとか、そういうことが気にならない人というのが、いるのだ、たくさん。自分で物語を作ったことがないからわからないのだろう。

絶対に実現することはないだろうが、オリジナル作品を作ったことのない人間は、他人の原作で作品を作ってはいけないとか、そういう世の中になればいいのに、と思う。




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