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熊野にまつわる物語①

熊野と関係のあるお話をみていきます。
今回はふたつの恋物語をご紹介します。

道成寺(どうじょうじ)説話

出典:『安珍清姫譚』下(国立国会図書館デジタルアーカイブ〔https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/883234〕, コマ番号11)

和歌山県にある天台宗寺院・道成寺を舞台とした悲恋の物語です。
真砂の役人の娘・清姫(きよひめ)は熊野詣でに訪れた美麗な僧・安珍(あんちん)に一目惚れをしました。
困った安珍はその場しのぎに熊野詣での帰りに清姫のもとに立ち寄ると約束をします。
しかし安珍は一向に姿を現さず、しびれをきらした清姫はなりふり構わず安珍の後を追い始めます。
苦労の末安珍との再会を果たしますが、この恋が叶わないことを知り逆上し清姫は大蛇へと姿を変えます。
道成寺へと逃げ込んだ安珍は鐘楼の鐘の中に身を隠します。
しかし大蛇はその体で鐘に巻き付き、鐘もろとも安珍を燃やし尽くしてしまいました。

ちなみに京都市左京区の妙満寺には、清姫により燃やされた鐘に代わってつくられた鐘が、安珍・清姫の鐘として伝わっています。
この鐘をつくって以来不吉なことが続いたため山中に捨てられていたところ、秀吉に仕える武将が掘り起こし京都に持ち帰ったとされています。

小栗判官(おぐりはんがん)伝説

小栗判官伝説は、みにくい餓鬼の姿になった小栗が人々の助けを借りて熊野の湯の峰温泉で復活を果たし、ヒロインの照手姫(てるてひめ)と結ばれるという恋物語です。

出典:『おくりの判官』(国立国会図書館デジタルアーカイブ〔https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2533609〕, コマ番号10)

小栗は公家の家に生まれた念願の男児で大切に育てられましたが、醜聞をさらして常陸国(現在の茨城県)に流されてしまいます。
ところが、相模国(現在の神奈川県)で美女と名高い照手姫と勝手に契りを交わして、照手姫の父親の怒りを買います。
小栗は毒殺され、照手姫は川に流されました。
その後、照手姫は遊女宿で下女として過酷な日々を送ることになります。
小栗は閻魔大王の裁きを受け現世に戻されますが、その姿はみすぼらしい餓鬼のようでした。
閻魔大王からもらった「熊野本宮の湯の峰に入れるように」という札を首から下げた小栗に、藤沢(神奈川県)の上人が救いの手を差し伸べます。
上人は小栗を「餓鬼阿弥」と名付け、札に「一引きすれば千僧供養、二引きすれば万僧供養」と書き足しました。
すると功徳を積むため多くの人々が小栗の乗る土車を引き、少しずつ熊野の地が近づいていきます。
照手姫も餓鬼阿弥が小栗であることも知らず、土車を美濃国(現在の愛知県)から近江国(現在の滋賀県)まで引き、札に「病が癒えた暁には美濃国を訪ねてほしい」と書き残し去っていきました。
ついに湯の峰温泉へと辿りついた小栗は、つぼ湯に入れられ49日後に元の姿を取り戻します。
胸札の書き置きを見た小栗は照手姫との再会を果たし、2人は再び結ばれました。

20101018湯の峯 つぼ湯

実はこの小栗、今では京都の有名な心霊スポットとなっている深泥池(みぞろがいけ)に棲む大蛇が化けた美女と契り、父親から京都を追われていました。

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