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#6 エレガントな彼女

 ある女優が雑誌『Preciousプレシャス)』に寄稿したエッセイを、ブログで紹介している女性がいた。そのエッセイは、『エレガントな箸』というタイトルで、京都の名店「御箸司 市原平兵衛商店」の箸について書いたものだった。
 ブログの彼女もその店の箸を使っていて、箸を紹介しながらこの女優のエッセイの全文を、自らのブログに載せていたのである。 ↓↓↓

  『京都、四条通り。観光バスとタクシーと修学旅行生と買い物客の千波万波をかき分けて、河原町と烏丸の中程を左に折れる。まるでプールに飛び込んだかのように、さっきまでの喧騒がふっと止む。小路をしばらく歩けばその店がある。
            (略)
  この店の平安白竹溜塗分けに出会ったとき、もう他の箸ではごはんを食べられない、と思った。掌が包む部分は小豆色の漆を塗ってある。先端はどこまでも、細い。軽くてシャープでエレガントな箸。唇に触れるとピシリと鞭を入れられたように、背筋が伸びる。……』

「……まるでプールに飛び込んだかのように、さっきまでの喧騒がふっと止む」とか、「ピシリと鞭を入れられたように…」など、この研ぎ澄まされた表現に私は息を呑んだ。
 そして、偶然にもここの取り箸を使っていた私は、その共感とともに、
「この文章はどこに掲載されていたのですか? この方の書いた本はあるのですか?」
とブログのコメント欄に尋ねたのである。
 その時の彼女の返事は、「著書があるかどうかはわからない」といったものだったので、私もなんとなくそのままにしていた。自ら本を探してみるといった情熱は起こらなかったのだ。

 そうしたある日、散歩から帰って郵便受けを覗いてみると、青いレターパックが投函されていた。送り主はブログの彼女。
「なにかしら?」
と開けてみると、なんと!『エレガントな箸』の著者、鈴木保奈美さんの本が入っていた。
 コメント欄に問い合わせたことすら忘れていた私の質問に応えるように、探してくれたのだった。
 その行為に「感動した」とか、「嬉しい」とか、「感謝した」とかいう言葉では、まったく足りない。もはや「惚れた!」の領域だ。
 「エレガントな女性」。あぁ、こんな心持ちの女性になりたい! ワタクシ64歳。はて、間に合うのだろうか?

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