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緑にゆれる(ロングバージョン)

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長編小説「青く、きらめく」の十五年後の物語。大人になったカケル、美晴、マリのそれぞれの愛の行方は――鎌倉周辺で取材で撮った写真と共にお送りします。
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記事一覧

【連載小説】緑にゆれる Vol.1 序章

同じキャンパスで過ごした日から十五年。 カケル、マリ、美晴のそれぞれの十五年後。 外資系の…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.2 第一章

第一章 「よし、終わった。ね、もう行ってもいい?」  圭が、最後のシールにはんこを押しつ…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.3 第一章

 秀幸さんとは、勤めていた都内のクッキングスタジオで出会った。「男のための料理教室」。上…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.4 第一章

 美晴が秀幸さんの一人暮らしのマンションのキッチンに立ったのは、それからさして時を経なか…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.5 第一章

  ***  鎌倉ロケも最終日を迎え、午後も早いうちに撮影は終わった。  カケルは、仕事…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.6 第一章

 小さな店内は、温かい静けさに満ちていた。南に開いた大きな窓から、日差しがたっぷりと入っ…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.7 第一章

 夕ごはんも食べていって、と言われて、そのまま夜までごちそうになった。 「ランチの残りで申し訳ないですけど」  彩りよく配膳されたひよこ豆のカレーと、トマトと小えびのマリネサラダが出てきた。 「ん、おいしい」  昔は、カツカレーばかり食べていたけど、カレーの趣味も変わった。  息子の圭は、美晴の隣で黙々とカレーを口に運んでいた。伏し目がちで、ほとんどこちらを見ない。カケルさんは、お母さんの古い友達なのよ、という美晴の言葉も、あまり彼を安心させなかったようだ。 けれど、

【連載小説】「緑にゆれる」Vol.8 第一章

 そのとき、彼女は立ち止まって、小さく、あ、と声を漏らした。 「どうした?」  カケルも…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.9 第二章

   第二章  このピアスをするのは、久しぶりだ。鏡に向かって、ピアスをつけたあと、マリ…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.10 第二章

「そう言えば、先月、カケルさんが来てくれました」  美晴が屈託なくそう言ったとき、計らず…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.11 第二章

 ふいに、おそろしく虚しい気分に襲われた。ぽかーん、とした昼間。みんな忙しく自分の世界で…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.12 第二章

「どうしたの? こんな所で」  肩越しにこちらを振り向いたカケルは、少しだけ眉間にしわを…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.13 第二章

 カケルは、リラックスした様子で、マリを見て、そのまま緑に目を移している。 「この間、美…

清水愛
2年前
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【連載小説】「緑にゆれる」Vol.14 第二章

 このとき、今まではっきりと形をとっていなかった疑念が、マリの頭の中に、くっきりと浮かび上がってきた。  やっぱり、会社を辞めたことが、失敗だったのではないだろうか。  そのときの決断が、いかに重大なものだったのか、改めて実感として自分の中に沸き上がってきた。それと同時に、夫から言われたひと言も。 「会社辞めてもいいんじゃない? って。言ったの。夫が」  マリは、うつむいて、カップに手をかけたまま、言った。 「ショックだった」  マリは、先ほど流していた自分の涙が