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【短編小説】望月のころ 第8話

   第8話

 短いメッセージがさくらから届いたのは、夜半のことだった。
 返信しようと、何度も文字を入力しかけては消す。どんな言葉も、相応しいとは思えない。

 もう一度彼女のメッセージを読み返した。

『こんなに反省している武を見るのは初めてで、驚いています。まだ複雑な気持ちだけど、操のためにも家族としてやり直さないとね。如月くんには迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ないです』

 友としての親しみが込められている。けれどもそれはすなわち、僕と彼女との間に横たわるはっきりとした境界線だった。

 すべて失った。こんなにもあっけなく。

 もう僕には、剥がされた仮面を再び被る方法がない。

 だから、僕らがこの先会うことはもう二度とない。

 時計が秒針を時を刻む音が、静かな部屋に響く。これから待ち受けている長い長い時間が、僕の気を遠くさせた。

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