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【朗読劇】内股膏薬 第1話

   第1話

内股膏薬:場合や相手によって自分の主張を変えること。態度が一貫せず節操がないこと

[人物]

祐輔 ・・・バツイチ、女癖が悪い
雅恵 ・・・祐輔の元妻
胡桃 ・・・祐輔の会社の後輩
典子 ・・・女性弁護士
八重 ・・・祐輔の義理の母

   舞台には祐輔、弁護士の典子、胡桃がいる。
   着信音が鳴る。祐輔、電話に出る。

祐輔 「はい、もしもし・・・あ、耀子! 珍しいね、国際電話だなんて。どうなの、そっちは・・・うん、うん、うん・・・え~、いいねー! 僕も行きたくなっちゃったよ、マレーシア!
ずいぶん英語ぺらぺらになったんじゃない? ちょっと話してみてよ・・・オゥ・・・イエス・・・アハーン?・・・ワオ! すっごいじゃん! なに言ってるのかわからないけど。
・・・え? 今? うん・・・ちょっとね、取り込んでるところ・・・ううん、大したことじゃないから、心配しないで。・・・うん、まあ、ちょっと弁護士さんが来ちゃってさ・・・。
えっ? いやいやいや! 違うよ! 弁護士だなんて言ってないよ。『便利だしー、国際電話は』って言っただけ。あっ、料金かかっちゃうんじゃない? うん、うん、わかった。家のことは心配いらないからね。マイハニー耀子、愛してるよ。じゃあまたね」

   祐輔、電話を切って

祐輔 「いやー、ごめんごめん。お待たせ」

胡桃 「ちっとも待ってないですよ。お電話、誰だったんですか?」

祐輔 「うん? あー・・・取引先から、仕事のことでちょっとね。」

胡桃 「え~! お休みの日なのに、大変ですね」

祐輔 「すみません、弁護士さん。お待たせして」

典子 「それでは、さっそくはじめさせていただきますね」

胡桃 「はい、よろしくお願いします」

典子 「改めまして、わたくし弁護士の内田と申します」

祐輔 「あ・・・は、はい。よろしくお願いします・・・。
あのさ、胡桃ちゃん。今日は一体どうしたの? 突然、弁護士さんなんて連れてきてさ」

胡桃 「祐輔さん。今日は何の日だか、覚えてますよね?」

祐輔 「えっ、なんの日って・・・ええと、誕生日はこないだお祝いしたし、違うよね。何の日だろう・・・ごめん、わからないや。教えて、胡桃ちゃん」

胡桃 「今日はあたしたちがおつき合いを初めた記念日です! 3年前の今日、祐輔さんと初めて二人でデートしました(恥ずかしそうに)」

祐輔 「(デレデレして)ああ! そっかそっか。記念日かあ。早いよな。あれから3年になるのか。なんだか、あっという間な気がするね」

胡桃 「そうですね。祐輔さんのそばにいられて、夢のようです」

祐輔 「こちらこそ、胡桃ちゃんのおかげで幸せだよ。胡桃ちゃん、きみはぼくの宝物だ。きみのためなら、僕はどんなことでもできそうな気がするよ」

胡桃 「祐輔さん・・・その言葉は本当ですか?」

祐輔 「もちろん、本当だよ」

胡桃 「祐輔さん、あの時、言ってくれましたよね。時間はかかるかもしれないけど、今から3年以内には必ず妻と別れて、きみと結婚するって」

祐輔 「え・・・言ったかなぁ・・・(慌てて)あ、いや、言ったよ、うん。言った言った」

胡桃 「はい、言いました。それでこれ、ジャーン! 覚えていますか?」

祐輔 「・・・なに、それ?」

胡桃 「祐輔さんがあの時に書いてくれた誓約書ですよ」

祐輔 「誓約書!? そ、そんなの書いたっけ・・・」

胡桃 「わたくし桜井祐輔は3年以内に妻と離婚し、胡桃ちゃんと結婚することを誓います。もし約束を守れなかったら・・・ふふっ、祐輔さん、なんて書いたか覚えてます?」

祐輔 「えっ・・・、ごめん、覚えてないや・・・」

胡桃 「そういうわけで、今日は弁護士さんに来ていただいたんです」

典子 「えー確認させていただきますが、あなたは桜井祐輔さんと同じ会社で働いていらっしゃる、胡桃さんですね」

胡桃 「ええ、そうです。祐輔さんとは3年のおつき合いになります」

典子 「そして、桜井祐輔さんは3年以内に胡桃さんと結婚するという約束をした。こちら、お間違えないでしょうか」

祐輔 「お、お間違えというか、あの、ちょっとした言葉のあやっていうか、漠然とした願望っていうか。ほら、会社に向かう満員電車でさ、反対ホームのガラガラの電車を見て、『あれに乗ってそのまま海まで行っちゃいたい!』なーんて思うことあるじゃないですか! あんな感じかな」

胡桃 「ひどーい! あたしへの気持ちは、そんな程度のものだってことですか!?」

祐輔 「違うよ! 僕はこれまで胡桃ちゃんのこと、うんと大事にしてきたじゃない」

胡桃 「はい、祐輔さんのこと、あたしは信じています。祐輔さんがあたしを騙すだなんて、そんなことありえません」

祐輔 「そうだよ。胡桃ちゃんは僕の宝物なんだから」

胡桃 「だから、今日はあたし、祐輔さんを迎えにきたんです。ほら、誓約書にもあるでしょう。『もし約束を守れず、たとえ離婚が成立していなくても、3年後には胡桃ちゃんと一緒に暮らす』って」

祐輔 「えっ!」

胡桃 「念のため、弁護士さんにも立ち会ってもらいました。これって、法的にありですよね?」

祐輔 「ちょっと待ってよ、胡桃ちゃん! 確かに僕は誓約書にそんなことを書いたかもしれないけど・・・でも、離婚なんて急に言われても」

胡桃 「急じゃないです・・・。3年待ちました」

祐輔 「そうだけど・・・でも、まだ耀子にちゃんと話せてないんだよ。だからさ、今日のところは・・・ね、ごめんだけど、また改めさせてもらえないかな」

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