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今日の1枚:バルトーク《管弦楽のための協奏曲》&ヴィオラ協奏曲(ブロック指揮リール管)

ベラ・バルトーク:
管弦楽のための協奏曲 Sz.116
ヴィオラ協奏曲 Sz.120
Alpha, ALPHA1013
アミハイ・グロス(ヴィオラ)
アレクサンドル・ブロック指揮フランス国立リール管弦楽団
録音時期:2022年7月

 フランス国立リール管弦楽団は、1976年の創設から2016年までジャン=クロード・カサドシュが音楽監督にあり、膨大な数のディスクを作って人気を博しました。特にベルリオーズからデュティユーに至る近代フランス音楽の録音に熱心で、そのうちのいくつかは日本でもなかなかよいセールスを記録したのではないでしょうか。カサドシュは80歳を迎えて音楽監督を退き、2016年からはアレクサンドル・ブロックがその任に当たっています。2019年より始まったブロックとリル管のコンビによる録音はまだまだ数えるほどしかないのですが、カサドシュ時代より磨きのかかったアンサンブルを披露して、どれも印象的なものになっています。かつてプソフォス四重奏団の第1ヴァイオリンであった田中綾子が首席コンサートマスターとしてオーケストラを統率しているのも見逃せませんね。
 リール管はフランスものの印象が強いですけれども、実は初期からカサドシュとマーラーの交響曲も録音していました。ブロックとのコンビではショーソンの交響曲や、ラヴェルと気鋭バンジャマン・アタイールの作品を収めたアルバムなど、フランスものも採り上げる一方で、マーラーの交響曲第7番の、ユニークな演奏もあり、リスナーの好奇心をくすぐるディスコグラフィを展開しつつあると言っていいでしょう。そんな彼らの最新譜はバルトークの《管弦楽のための協奏曲》とヴィオラ協奏曲を収めた1枚となりました。
 バルトークというと私などは、70年代に10代を過ごしたリスナーの多くが多分そうであったように、フリッツ・ライナー指揮シカゴ響の録音が《管弦楽のための協奏曲》の聴き始めで、あの苛烈なアクセントを次々に打ち込んでいく、整然として厳しく引き締まったサウンドこそがバルトークだと刷り込まれたものでした。少なくない数の録音が次から次へと世に出る人気曲であるこの《オケコン》、近年の録音でもそうしたサウンド・イメージの影響を受けている録音はなかなか多いように思います。
 しかし、ブロックとリール管によるバルトークは、それらからずいぶんと遠い位置にあります。オーケストラの合奏の精度とか、重量感という点では、リール管は第1線級のオーケストラとは言いかねるでしょう。でも、ブロックはそうした方面で勝負をしようとはしていない。強弱の幅は大きくとりながらも、耳を襲うような厳しいアクセントは柔らかく丸められ、打ち込まれる和音は発音のインパクトではなく、音色の積み重ねの明快さ、その俊敏な変転が前面に出されています。木管と金管の重なるところでは、その重なり具合もきちんと聞こえるように、また埋もれがちな内声部の動きも分離して聞こえるように、といった気配りが全編にみなぎっている。特にユニークなのは終楽章で、ここでは突進するような無窮動の動きに目が行きがちですけれども、ここでの演奏は無窮動の弦の動きよりもそこに絡んでくる管楽器のほうに焦点をあてているし、テンポをぐっと落として音楽が落ち着いた場面では待ってましたとばかりに、バランスのよいアンサンブルで不思議な味わいのある音楽を繰り広げます。そのどこかフォークロア風の香りすら漂う音作りは、ひょっとしたら次のヴィオラ協奏曲の曲想にちょっと引きずられているのかもしれません。万人に太鼓判でお勧めしたい盤とはいいませんけれども、こんな切り口のバルトークもあるのだ、と楽しんでもらえる演奏ではないでしょうか。
 ヴィオラ協奏曲の独奏はエルサレム四重奏団を経てベルリン・フィルの首席奏者の座を射止めたアミハイ・グロス。こちらは掛け値なしの名演奏と言っていいでしょう。豊かなヴィブラートを備えながら、グラマラスになり過ぎず、切れ味よく動き回るヴィオラと、艶やかな音色でそれに絡む木管群がよいアンサンブルを作っています。《オケコン》でも美しい音色と味のある歌い回しを披露していた木管楽器のソロが、フルートからバスーンまで、あちこちでよい音色のアクセントを施しているのが聴きものです。

(本文1654字)


Bartok - Alexandre Bloch

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