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シェリのこと

6年前、2017年2月22日にFacebookに載せた文章。
これまでここに載せたエッセイとは少し毛色が違いますが、自分の中で残しておきたい内容だったので、転載しておきます。

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「シェリのこと」

(ながいこと、すこしずつ書きためていたものなので、ひどく長いです)

ようやく、母に関するいろいろなことが落ち着いて来ました。
お家の整理もまだ時間がかかりそうですが、叔父、伯母、いとこ、たくさんのお友達のおかげで、なんとか目途が立ってきました。

お店のお客様も、ようやくほとんどの方が知ってくださったところです。
これまでは、母の訃報をご存じなかった方に、毎晩のようにお話ししては泣いてしまうという日々でした。

母の件があまりにも突然で、ショックも大きかったため、お話する機会がなかったのですが、母には大切な愛犬がいます。17歳のパピヨン、シェリです。

10月に母の入院が決まって、最初の問題はシェリでした。
母の病状がそこまで進行しているとは本人を含めて誰も想像すらしていなかったので、家族会議の主題はまず、「シェリの介護」でした。
母宅はマンションでもペットの飼育ができるのですが、わたしのマンションも、他の家族もみんな、ペット厳禁のマンションに住んでおり、みんなで悩みました。

わたしが母宅(つまり実家)に滞在することも考えましたが、仕事が2つある身では結局、シェリは一日中ひとりぼっちになってしまいます。
若くて元気な子なら心配もすくないのですが、シェリは17歳で、もう眼も見えず、耳も遠く、あまり目が離せないのです。

そこで、母といろいろ調べた結果、市内に「老犬ホーム」があることが分かり、しばらくはそこにお世話になることに決めました。

入院前夜にシェリを預けに行った時、母もわたしも胸が押しつぶされるような思いでした。
ホームにはたくさんの老犬がいて、その中でもシェリは最年長でした。

スタッフのみなさんはやさしく、老犬のお世話に慣れているので、安心して預けることができるとはいえ、状況が吞み込めていないシェリを、よそに置いてくるような日が来るなんて。

でも、母はすぐ元気になってシェリを迎えに来るつもりでいましたし、わたしもそう思っていました。

10月下旬から11月初めまで一時退院した際には、すぐにシェリを迎えにいき、10日間、母とシェリは一緒に過ごすことができました。

そして、再入院となり、シェリもホームへ戻りました。
母にとっても、シェリにとっても、本当につらいことでした。

わたしも、伯母、叔父、いとこたちも、シェリにとって最善の方法を何度も考えました。
ただ、母の病状が坂を転がり落ちるように悪化してゆく中で、シェリのことに心が及ばなくなってしまう時もたくさんありました。

母の病院のあと、シェリに会いに行って、ばらばらになって、どちらも苦しんでいる様子を目の当たりにし、何度も泣きながら帰りました。
そして、本当につらいのはわたしではなく、母とシェリなのだから、と、ふたりの前では絶対に泣かないようにしていました。

その後、母は東北大学病院の緩和ケア病棟に転院が決まり、そちらではワンちゃんと面会もできるというお話で、母は12月1日の転院を心待ちにしていました。

ですが、病状が思わしくなく、転院後わずか2晩を過ごしただけで、旅立ってしまいました。
シェリに会うことも、叶いませんでした。

その後は、お葬儀やその後の手続きに追われ、シェリに会いに行ってあげられない日々が続きましたが、シェリをどうしてあげたらいいのか、どうしてあげられるのか何度もみんなで話し合いました。

そんなときに、シェリを預かってあげたいと言ってくださる方が現れました。

その方は、過去にもお友達が事情があって飼えなくなったワンちゃんやネコちゃんを引き取って育てていて、今もお年寄りのダックスフントとネコちゃんがお家にいるとのことでした。

今の状況をお話して、一度シェリに会っていただいてから決めていただくことにしました。

シェリは、ホームで2か月過ごす間に随分と痩せてしまい、歩くことも難しく、立ち上がる気力もないほどに弱くなってしまっており、本当に人様にお願いしてよいのか、という思いもありました。

そして、実際にシェリに会っていただき、いろいろとお話をして、お世話になることに決まりました。

1月のはじめ、シェリはたくさんの花婿道具を持って婿入りしました。
その後は、大切にかわいがっていただきながら過ごしています。
そちらの中学生のお嬢さんが時折、写真や動画を送ってくださいます。

お家も近いので、先日もお邪魔してシェリの顔を見に行ってきました。
シェリは、ピンクの靴下を履かせてもらって、一生懸命歩いていました。先日、獣医さんのところへ行ったら、人間の年齢に換算すると105歳だよと言われたそうです。

わたしが引き取ってあげられなかったことを思うと、心底、こころが責められます。
でも、こうして会える距離で、いちばんいい環境で大切にしてもらえていることに感謝をしています。「このご縁も、好子パワーだね」とみんなで話しています。

そして、明日から土曜まで、シェリが里帰りしてくることになりました。丁稚のシェリくん、藪入りです。

ペット禁止でも、3日ぐらいはなんとかなるでしょうということで、こっそりうちに連れてくることにしました。
母の分も、できる限りの愛情をかけてあげなければ、と思っています。

シェリ、明日お迎えにいくからねー。おいしいカステラも買っておくよ。福砂屋だぜ!

(この写真は、たぶん10歳ごろのシェリ。
母のフィルムカメラに残っていたフィルムを現像したら、この写真だけぽつんと1枚、写っていました。
なんだか表情がとても自然で、母とシェリの間に流れていた空気が漂ってくるようで、とても気に入っています。)

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この日から3週間後、シェリは17歳と5ヶ月で旅立ちました。

素敵ないぬでした。
本当に陽気で可愛い子でした。

シェリ。シェリ。撫でたい。

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