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孫泰蔵氏の「冒険の書」を読んで、英国パブリックスクールのフィードバックシステムに想いを馳せる

こんにちは、aicafeです。
40代、人生時計で14:00頃に差し掛かったところです。
これからの人生の午後の時間の過ごし方を模索中です。

孫 泰蔵さんの「冒険の書 AI時代のアンラーニング」を勧められた

先日、自己分析が得意な大学時代の友人で、わたしに「40代からの仕事探しはトキメキだぞ」と教えてくれた子が勧めてくれた本を読みました。

孫 泰蔵さんの「冒険の書 AI時代のアンラーニング」です。

普段は手に取らないタイプの本です。
が、別の知人からも勧められていたのと、夏頃の電車内の中吊り広告でよく見かけていたので、評判の本なら読んでみようと思い、手にとりました。

内容は、この表紙の雰囲気と全然違いました。
わたしは装丁から勝手に青春小説のようなイメージを持ってしまっていたのですが、実際は、古今東西の哲学や思考について解きほぐし、新しい教育・学び方について考える本でした。

「アプリシエーション」という概念

この本の中で「アプリシエーション」という概念が紹介されています。
デール・カーネギーの「人を動かす」の中で使われているキーワードのことで、「Give honest, sincere appreciation=誠実に、心をこめて、相手の良さを認める」と、著者は訳しています。

泰蔵さんは、単一基準で結果を評価する能力信仰的なやり方ではない別の評価方法として、このアプリシエーションに一つの希望を見出しています。

わたしはこのアプリシエーションについて触れた時、英国パブリックスクールでの教育について読んだ本を思い出しました。
ハロウ安比をはじめとして、近年、複数のパブリックスクールが日本で開校しています。英国の教育輸出政策の表れでもありますが、この流れを受け、わが家もインターナショナルスクールに息子を通わせている身でもあることから、英国パブリックスクールの教育システムに興味を持ち、何冊か本を手に取って読んでみたことがあるのです。

SPY×FAMILYみたいな英国パブリックスクールの褒章の仕組み

何冊か読んだ本の中で共通に語られていたのは、褒章システムです。
生徒の善い行いを《わかりやすく》褒めることが、仕組化されているのです。
褒章の形は、生徒が身に付ける制服やマントやネクタイの色、所属する寮、教師の手にする生徒リストや生徒手帳など、目に見えるかたちで表されます。
漫画「SPY×FAMILY」に登場する「スター」の制度に近いものだと思います。

褒める内容も勉強や成績に限らず、スポーツや芸術文化活動、生活態度など幅広く、様々な角度から生徒の行いが評価されます。
24時間生活を共にする寮生活が大半のパブリックスクールだからこそ可能な多角評価の仕組みかもしれません。

生徒にとっては、褒章されることで《自分の行いが善いものだった、優れたことだった》という確認になり、その行いに対する自信がつきます。
褒められることが増え、例えば特別なネクタイを身に付けるようになれば「特別なネクタイを身に付け得る者」としての所属意識が芽生え、「特別なネクタイを身に付け得る者」としての振舞いを意識し、周囲に対して責任を持つようになります。
やがてそれは一人の人間が、社会に対して負う責任感や、褒章された様々な「善い行い」に基づいた倫理観の形成にもつながっていくということのようです。

豊かなフィードバックシステムに潜む危うさ

パブリック・スクールと日本の名門校」の著者の秦由美子氏は、こう話しています。

誰しも必ず秀でた能力を持っているということを、寮長や上級生をはじめ、周囲がしっかりとフィードバックしている。目立たなくても、自分の能力を他の人たちから認められることによって、自分も相手の能力を素直に認めることができるのだと思います。

https://resemom.jp/article/2018/08/31/46543.html

重要なのは、どんな小さなことでもフィードバックがある、ということだと思います。受賞したり優勝したりという派手なことだけでなく、全てに光を当てて、「善いことは善い」とフィードバックする仕組み。
これは非常に豊かなフィードバックシステムだと思いました。

危ういのは、評価する側の公正さ、高潔さが必要になってくる点でしょうか。パブリックスクールの教員の採用は厳しいことで知られていますので、この点はクリアするのでしょうが、一般化できるかというとこの点で難しさがあるように思います。

また、あからさまに褒めることでイジメや妬みの標的にならないかとの懸念も浮かびます。が、多様な評価軸があることでお互いを認め合う関係性が築かれることから、”英国パブリックスクール社会においては”その懸念は無用のようです。

アプリシエーションとパブリックスクールのフィードバックシステム

この英国パブリックスクールの褒章の仕組みが、孫泰蔵氏の示す「アプリシエーション」は近いものだと、わたしは感想を持ちました。
どんな行いも善いと思ったことを素直に褒めて称える仕組み。
シンプルですが、なかなか日本の教育現場で仕組化はされていないのではないでしょうか。

なお、パブリックスクールでは褒章に対して、もちろん懲罰の仕組みも厳格です。規律やマナーにも厳しいので、孫泰三氏の描く新しい学びのスタイルとパブリックスクールのそれは大きく異なります。
ですが、その共通項とも思える概念が、14世紀の中世イギリスに始まった教育システムの中に見出せたことは、なかなか面白い読書体験となりました。

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