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おりがみの魔法とくしゃくしゃの5ドル   -小さなバッグを持った女の子ゲストのはなし-

はじめに

前回、[あなたは何のために働いているの?-ウィッティーのはなし-]で、少し船のチップ制度についてのお話をしました。
日本の皆さんには馴染みのないアメリカのチップの制度、まさかアメリカのレストランで働く人には基本給料制ではなくチップだけでお金をいただくシステムになっているということは、多くの方々からびっくりしたと反響がありました。もう少し異文化理解にもお役立てできればなと思い、チップについてのエピソードをもう少し書いてみようと思いました。
お金というものの価値について船では本当によく考えさせられたと感じています。
今回のお話は私がレストランチームに配属され、どのようにチップと向き合いゲストへ魔法を真剣にかけてきたかということを書いてみたいと思います。

すべてが英語

少し前に、[アメリカのディズニーで働きたい夢 〜スマイルのはなし その1~]でも話しましたが、私は英語がとってもとっても苦手でした。
苦手だけれども、アメリカの本場のディズニーのサービスを勉強したいという思いだけで船に乗る。という、そこまでは熱意で何とかできたんですよね。
ただ実際に船に乗ってみると、まぁ〜大変でした。
当初、ワンダー号に配属された時は、日本人クルーは1つの船に1-2人数ヶ月被っているかどうかといった人数でした。またマーチャンダイズにいるNamiちゃんとはシフト時間が異なるため1ヶ月に数回会えるかどうかといった感じで日本語を話す機会はほぼなく毎日英語で過ごし、トレーニングなどもすべて英語で受講しました。
きつかったのはセキュリティ系、セーフティー系のトレーニングでした。
船は乗客の安全を第一に考えている乗り物でもあります。そのためセーフティーのトレーニングは事細かにあります。船内にあるすべての避難経路の把握、船の避難ボードの数、そこに設置されているライフジャケットの数、予備の数などの細かい数字もテストに出るので暗記するのが大変だったのを覚えています。(覚えるのも大変だけれどもテストの質問を理解するのも大変)ワンダー号は3泊&4泊のクルーズ構成が1週間なので、週に2回も避難訓練がありその責務が発生していました。

3泊+4泊クルーズ航路の船は週2回避難訓練がある。

そんな英語レベル感の私が苦労したことは、ゲストとの会話。
最初はすーっごく難しかったのです。
以前、[アメリカのディズニーで働きたい夢 〜スマイルのはなし その2~]でも話しましたが、WDWのEPCOTの日本館にある三越経営のレストランで働いた時には、会社により決められたセリフをロボティカルにフロー通り発することが仕事に必要な英語範囲でした。
クルーズの場合は、ゲストのテーブルを担当し、かつクルーズ滞在中は同じゲストと共に過ごすことになります。よりパーソナライズされた会話が必要です。
そしてその自分のコミュニケーションが、ゲストからのサービスの評価となりチップという形で現れます。
そこには細かな会話が必須です。


ゲストからはレストランのクルーであっても容赦無く質問を英語でわーーーっと受けていました。
例えばこんなこと…。
「明日着く港でイルカを見にいくツアーに行くんだけど、その時間の確認はどこですればいいの、あと子供がもし寝たらどうしたらいいの」

「明日シンデレラに会いたいんだけど、何時にどこに行ったら会えるの」

「あなた、白雪姫の7人の小人の名前全部言える?3、2、1」→えw


つまり、質問の意味も英語で理解し、その回答に必要な知識も英語で吸収して回答できなくてはいけないので結構大変でした。
特に時事的なトピックやアメリカンコメディなどのネタは難しいのでルームメイトとFRIENDSを見てました。
なるほど、こういう時に笑うのか、こういう時に包み隠さずこんな声かけをして助け合うのか、空気読みつつ話を進める日本とは全然違うんだなと、アメリカのTV番組は役立ちました。ハンナモンタナもアメリカの学校というものがどんな感じなのかをイメージできてすごく役立った。


「デザートのオーダーは?」と聞くと「nothing for me」とオーダーされたので「nothing」をどうぞ!



業務自体はというと、クルーズのレストランクルーにはサービススタンダードのトレーニングがあります。
私は世界中のディズニーパークを訪れてディズニーのレストランを研究したことは「スマイルのはなし その2」でもお伝えしましたが、ディズニークルーズほど、しっかりとレストランサービスのスタンダードを教育し、実践している場所はないと思っています。
どのようにゲストにドリンク(特にワイン)やフードを紹介したりお薦めしたりどのように食べ物を描写するかというトレーニングが毎日のようにあります。
この厳しいトレーニングがあったからこそ、私は業務上に困らない知識で英語で会話をすることは出来ました。感謝です。
(どんなトレーニングがあったかはとっても楽しいお話なので、また別の機会にお話ししますね!)

しかし、私にとってそれ以上にめーっちゃくちゃ難しかったこと。
それは、、、お子様との英語での会話!

子供たちとの英語

日本語であっても子供たちの全てのお話を100%理解することは難しいのですが、それが英語となると難易度はグッと上がります。
子供は素直です。
英語を話しているつもりの私に、「英語で話してほしい」と言われた時はプチショックでしたw

あと、
よく言われていたことは、クルーズの初日にはゴールデンミッキーというショーがありましたが、その中にムーランが出てくるんですね。
それで、よくセカンドシーティングの子供ゲストは、

Are you Mulan?
I just saw you in the show!!!
(あなたムーランでしょ!ショーでさっき見たんだから!)

と興奮気味に語ってくるのですね。
そしてそのお母さんがアイコンタクトで「話を通してあげて!!」と目配せしてくるので、私は小さな小さなお子様にはムーランになりきることだってありました。
そう、子供たちにとってはきっと私は初めて出会うアジア人なのかもしれない。きっと自分とは違う目の形をしていて、髪の色をしているアジア人に興味と憧れを持って接してくれていることを感じるのです。

お皿があればすぐミッキーイヤーを作ってました。

ああ、子供たちとどうにか仲良くなりたい!会話をしたい!
そこがモチベーションでした。
そして私は毎晩ディズニーのアニメを見て、そのセリフを覚えました。セリフで会話をすると、子供たちも乗ってきてくれます。

でも、何か私にしかできないことを、魔法を子供たちにかけることができないだろうか。
最初はそこが課題で、導くまで時間がかかりました。

折り紙の魔法

クルーズのレストランクルーは素晴らしいと思います。
なぜならみんな手品のスキルを持っているからです!

あるひとは、クレヨンを使って赤色のクレヨンが消えるという魔法を。
あるひとは、青色の水に胡椒をふりかけ、指を触れると胡椒が逃げていくという魔法を。
あるひとは、トランプを使って巧妙な魔法を見せてくれる。

レストランにはそんな、魔法使いのクルーがいっぱいいるのです。
ディナーが終盤に近づくとみんなはその魔法タイムを作るために一生懸命サービスを迅速に進めるよう実は細かな工夫をしていたりするのです。
(それもまた今度お話ししましょう。)

さて、私は何の魔法ができるだろう。
毎回毎回子供達が塗り絵に使う紙のキッズメニューを使って何かできないかを考えました。

そうか。
私は広島の出身で、折り鶴を折るスキルを身につけているじゃない!
(東京に住んでいた頃、驚いたことは紙を渡されて鶴をすぐに折れる人が少ないっていうことでした。)
でもただ折り鶴を折るだけでは面白みがない。
悩んでいたところ、タイ人のスータスがマジックトリックを披露している時に、
日本でいう「種も仕掛けもありませ〜ん」的なことをスピーチしながら魔法をかけているのを見ました。
「3,2,1,,,,じゃーーーん!!」

わーー とっても楽しそう!
なるほど!私も何かスピーチしながら折り鶴を折ってみよう!
私はティンカーベルからヒントを得ました。

子供たちに折り紙を折り、カタカナで名前を書く私

子供たちに折り紙を折りながら、このようにスピーチしました。

アイコ:
「見て見て!ここにある紙で今から何かを作るよ。なんだと思う?」
すると、子供たちは口々に動物の名前を言い始めて当てっこゲームが始まります。
当てっこゲームをしながら折り紙を進めていきます。

アイコ:
「そう!当たり!鳥さんだよ!見ててね!」

私はすっごく折り鶴を折るのが早いのです。1分でできちゃいます。

アイコ:
「鳥さん!もうすぐできるよ。じゃあみんなに質問、この鳥さんは飛ぶことができるかなあ?」

そういうと、子供たちは紙だから無理だと思うと言い始めます。

アイコ:
「そうか、でもみんなが信じないと鳥さんが飛べないよ。鳥さん、飛べるかな?信じる?信じるひとはみんな拍手をして!」

すると、目をキラキラにして一生懸命拍手をする子供たち。

アイコ:
「じゃあティンカーベルの魔法の粉をかけるよ!パラパラパラー!じゃあいくよー!3.2.1!!!」
そして私は羽を大きくパタパタ動かし鳥を空中で羽ばたかせるので、
子供たちの顔はぱああああっと明るくなるのです。

すぐに子供たちはお父さんお母さんのところに行き、今見た感動を興奮して伝えます。
そんな初めてのリアクションをみるお父さんとお母さんは、私に感謝をしてくださるのです。娘にこんな素敵な笑顔を作ってくれてありがとう!って。

ゲストは手紙にどれだけ私のサービスに感謝をしてくださっているかを添えて、チップとしてお礼を伝えてくださるのです。
真剣にこの魔法と向き合い、ゲストに笑顔を作っている、それがこんな形として手元に残るんだという感動が毎回ありました。

オリビアちゃんとモーガンちゃん

以前、「Welcome to our family- トムのはなし-」でもお伝えいたしましたが、ゲストはクルーズに何度も何度もリピーターとして戻ってくださいます。彼らはミッキーマウスに会いにクルーズに乗りに来ましたが、リピートして戻ってくる時には、本当に大好きなクルーに会いに戻るのです。

そして私たちクルーは言います。

「Welcome Home!」(お家にお帰りなさい!)

って。

船に乗船するなりいつも私を真っ先に探す冒険に出るのは、オリビアちゃんとモーガンちゃん。
私がパロットキーでグリーターをしていると、
「アイコ!!!」と遠いところからわーっと2人が走ってやってきます。
私が両手で2人を受け止めると、オリビアちゃんとモーガンちゃんがビニールの袋を見せてくれました。
そこにはカラフルな折り紙のカブトがたくさん入っていました。
オリビアちゃん:
「アイコが前のクルーズの時に教えてくれたカブト!こんなに練習したの!アイコに見てほしくて持ってきたの!!!」
アイコ:
「わああ、すごいね!上手になったね!私が作ったものよりもすっごく上手だよ!」
モーガンちゃん:
「お父さんとお母さんに夜はアイコのテーブルがいい!ってお願いしたんだけど、私の願いが叶うといいなあ!このクルーズは妹の誕生日なの!」
アイコ:
「わああ、オリビアちゃん、お誕生日なのね!それは目一杯お祝いしなくっちゃね♪」

そして私は寝る前の時間に、折り紙を細切りにして輪っかを作り、お誕生日おめでとうと日本語で書いたメダルを作ったものをプレゼントしました。
オリビアちゃんはすっごく嬉しかったみたいで、それを見てるお姉さんのモーガンちゃんも嬉しそうで。
何よりお父さんお母さんが、その2人の様子を見て嬉しそうで。

ああ、本当に幸せな家族の時間を提供できてよかったという気持ちになりました。
オリビアちゃん、モーガンちゃんのファミリーは毎年何度か乗船されたり、3泊4泊連続のBack to backクルーズをされたりと何度も一緒に楽しいディナータイムを過ごす思い出ができました。
キッズクラブで作ったミッキーの壁飾りを「アイコのために作ったよ」って持ってきてくれて、本当に私との時間を楽しんでくれているんだなと感動しました。


かばんを持った小さな女の子ゲスト

チップのことを語る時にはこの話をどうしてもしたかったので、
最後にこの小さな女の子ゲストのお話をします。

女の子はプリンセスのドレスを着ていました。
小さな女の子で、それがさらに大きなかばんを持っているように見えたのかもしれません。
私はつい、そのカバンの中に何が入っているのかを見せてほしいなと声をかけました。
そこにはアリエルみたいに、いろんなものが入っていました。
宝石だったり、小さなお人形だったり、そしてお財布がありました。
女の子はそのお財布の中身を見せてくれました。
そこにはくしゃくしゃの5ドルが入っていて、女の子はこう言いました。
「この5ドルはママにもらったの。ママが本当に買いたいものがある時に使うお金よ!って言ったの。だからお財布に入れて大事にしてるの。」
と言いました。
大事に大事にしているので5ドル札はくしゃくしゃになってしまったんだなと察しました。
そんなふうに小さな子供に、「本当に買いたいものがある時に使う大事なお金」と教えることは素晴らしい、なんて素敵なファミリーなんだろうと感じました。

そしてクルーズの最終日、そのファミリーが私に封筒を渡します。
クルーズのチップは日本でいうお年玉のような小さな封筒に現金や、クレジットカードで支払った明細チケットを入れてサービス係に渡す仕組みでした。(補足:2022現在は電子化で、この封筒システムではなくなったとも聞きました。)
そのファミリーは私に手紙も添えて、チップの入った封筒を渡してくれたのです。
すると、続いて女の子がもう1つ封筒を私に差し出しました。
アイコ:
「私にくれるの?」
女の子:
「うん、紙の鳥を作ってくれてありがとう!開けてみて!」

その封筒の中にはあのくしゃくしゃの5ドルが入っていたのです。
アイコ:
「これは、受け取れないよ!とっても大事にしているお金じゃないの。本当に買いたいものがあった時に取っておいていいのよ。」
と女の子に言いました。

するとお母さんが話します。
お母さん:
「私たちが封筒にお金を入れているとこの子が、
「どうしてお金を入れるのか」
って聞いてきたの。
それで、
アイコが食べ物や飲み物を運んでくれたからその”ありがとう”の気持ちのお礼を支払うためよ。
ハウスキーピングの人も毎日タオルで動物を作ってくれたでしょう?だから"毎日ハッピーにしてくれてありがとう"ってお礼のお金を封筒に入れているのよ。
って説明したのよ。
すると、この子、じゃあ私もアイコにお礼をしたいからこの5ドルを使いたいって言ったの。私はこの子が素晴らしいと思ったのよ、だからアイコよかったら受け取ってあげて!」

私は女の子をぎゅっと抱きしめました。
小さな女の子がこの大事に大事に宝物と一緒にカバンにしまっていた5ドルを私のサービスに値すると受け取ったこと、このことは私にとっても一生の思い出でもありました。


おわりに


日々、仕事をし淡々とこなしているとお金というものの価値がわからなくなることがありませんか?
私はそんな時にこの船でいただいていた温かいチップのことを思い出します。
目の前にいるお客様に向けて、精一杯の心を込めたサービスを毎回提供することは大変難しいことですが、そのお客様に思いが通じて感謝を伝えてもらえることは幸せなことだと思います。
その感謝は小さな対価であっても大きな対価であっても、相手に示した気持ちです。
サービスに限らず、
誰かから優しく接してもらった時、厳しく接してもらった時、言葉にして真剣に話をしていただいた時、そんな時には言葉という形にして感謝をすること。
異国の地ではサービスへの感謝としてチップという形にして感謝を示すこと。
こう言った感謝の気持ちをいつも忘れず日々生活をしていきたいと思うのです。

そしてこの記事を読んでくださった皆様にも感謝です。
次回もお楽しみに!

おしまい

サポートをお考えいただきありがとうございます。 これからも楽しい記事をかくためのモチベーションとして大切にお気持ちを受け取らせていただきます。