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白黒ナプキン  ~リチャードのはなし~


このお話は私の大好きなマネージャーのフランス人のリチャードのエピソードです。
リチャードはとにかく、明るく元気でした。
DCLで仕事を始めてすぐにリチャードは、
Call me papa!
と親身にお父さんのように接してくれていました。
クルーもHe is the best!と絶賛していました。


アニメーターズパレットの白黒


まだDCL新人で働いて間もないある日のこと、
私はアニメーターズパレットというレストランで働いていました。
そのコスチュームは白黒のベストで、
レストランの中も椅子、テーブル、カトラリー、ナプキンの全てが白黒に統一されていました。
全てのテーブルにはナプキンがセットされているのですが、
ナプキンが白でセットアップされている席もあれば、黒でセットアップされている席もあります。

レストラン内は、
壁の光る絵の効果のために照明は暗く落とされていて、
白黒のキャンバスから、徐々に照明が明るくなり、壁絵には色が足されていき、最後にはレストラン全体がカラフルに変貌するというコンセプトの素敵なレストランでした。

白黒で統一されているデコレーション

このレストランではショーがあるので、
ダンボの曲 baby MineがレストランにBGMで流れたら、速やかにクルー全員がサービスを止めて、ショーの準備のためにキッチンの方に集合しなくてはいけませんでした。

そういった時間との戦いのあるレストランのため、いつも私は他のレストランで働くよりも若干焦りつつ仕事していました。

ゲストの前ではそんなことは見せずスムーズにお仕事をしていたい!

しかし!!!!
事件は起こってしまいました…。


黒いナプキン事件


スムージーを注文された女性ゲスト。
バーから狭い廊下を通ってスムージーをトレイに乗せて運びます。

しかし、ドリンクを持ったトレイのバランスを崩し、
女性のゲストの膝の上に、スムージーを丸ごとごっそり倒して汚してしまったのです… OMG….

こんなシェイプのグラスなのがいけないんだと思うw

私はもうすぐBaby Mineの時間なのもあり、真っ青、パニック…。
とっさに、
テーブルにある黒いナプキンを掴み、女性ゲストの膝の上のスムージーを黒いナプキンで掴み拭いはじめました。

ゲストが
"No No No No… It's OK… Don't do that!!"
というので、
"Oh… I'm sorry.  I'm so SORRY…."
と話し続けると、
少し大きな声で
Aiko…
No… please stop.  Because it's my scarf…"
(止めてもらえますか、それは私のスカーフなので….)

と仰ったんです。。。

えええええええ!!!
私が黒いナプキンだと思っていたものは、まさかのゲストの個人の黒い色のスカーフだったのです!!!そんなあ.…
暗くてわからなかったの...

"Oh.... I am really really REALLY SORRY….  "


私は泣きつつbaby mineの曲を聴きながら集合場所のキッチンに向かいます。
撃沈…..。
ああ、もうだめだ。

キッチンの中では…


キッチンで沈んでいると優しい先輩クルーのジャマイカ人のグレースが、私をハグしながら、言います。

グレース:
「Aiko、大丈夫よ。
私が新人の時には、食事のトレイを全部ひっくり返してしまってダイニングルームのど真ん中で大泣きしてたわ!
座り込んで泣いてたのよ。信じられる?
あなたの場合、スムージー1つなのよ!
そんな大きなことではないわよ。」

と励まします。

アイコ:
「でもグレース….
私はそのスムージーを黒いナプキンで拭いたと思ってたら…
お客様の黒いスカーフだったのよ… 泣」

とわんわん泣いたら、

キッチンで集合しているクルー全員が、大爆笑。

目がキョトンとしてる私…. 涙も止まるw


リチャード:
「アイコ!最高のネタをありがとう!
もう今夜はナプキンセレブレーションをしよう!
ね!みんな!アイコに拍手を!!!」

みんなは、ウェーイ!!!って感じで。
私もその雰囲気に負けてしまって、
つられて笑顔になって、ショータイム!
Zip a dee doo dah~の曲と共にキッチンを出て、
ダイニングルームにみんなで手を叩きながら戻ります。

お客様もとてもいい人


その後リチャードは、さっきとは表情を変えてゲストに新しいスムージーと共に謝罪をし、ゲストはとてもハッピーになって食事を終えられました。
スカーフとお洋服はランドリークリーニングに出すアレンジをしました。

ゲストもとてもいい人で、

「私も紛らわしい黒いスカーフをここに置いちゃってたからごめんね、Aiko、まだ船に来て間もないのに、どうか気にしないでね。これは高いものではないのだから。」

と私を励ましてくださいました。
めちゃくちゃ優しい。

新人風の方がお店が働いていると、いつも優しく接しないといけないなとお客様から学びました。


リチャードのショータイム


そして、レストランからゲストがいなくなり、
リチャードはレストランの中央に立ち、マイクを手にしました。

「オラー!!!コカコーーーラ!!!」

私は毎回、リチャードの、Hola! Cocacola! の出だしに爆笑してしまいます…。

「My team!
今日のMVPの時間でーす!
それは!!!
ジャン!
プリンセスAiko !!!!
Aikoはスムージーをゲストにぶっかけてしまいました!
Aikoはそれを黒いナプキンで拭いたつもりが、
なーんと!!!
ゲストの黒いスカーフでしたー!!!!!!
ブラーーーボーーーー!!!マニフィーック!」

そして、ダイニングルームのみんなが手をあげて黒いナプキンをふりかざし、ぐるぐる回して大喝采! 
ワイワイ盛り上がっていました。

そして私のトレーナーのミケーレが来て、
「Aiko、ここでは失敗しても誰も怒ったりしないんだよ。意味がないから。
でも、
それよりもすぐに立ち直って笑顔になることが何十倍も大事なことなんだ。忘れないでね。
僕たちは仲間だし家族だからみんなで共有してみんなで解決するんだよ。
困ったら僕やパパリチャードがいるからね。」
とまとめてくれました。

今目の前にある問題は、起こったことではなく、目の前のゲストをハッピーにすること。
これは言葉で伝わらなくともいろんな場面で見て学んでいきました。


なんでもマイクで話すリチャード

のちに、
私がドリーム号でレミーの仕事についたという話をリチャードにしたら、
ワンダー号にいるのにリチャードは、やっぱりマイクで、

「僕たちのAikoがなんと!
Remyで仕事するようになったよ!!!!
タイガーだろ!!!!ビッグタイムだろー!!!」

とノリノリでアナウンスしていたそうです。

ある日は、クルーの誕生日をマイクでセレブレーションしたり、みんながダイニングルームの後片付けとセットアップを早くするために急かしたり、
歌を歌ってくれたりもしてました。


Are you OK?

スカーフ事件っきり、私は泣いたりすることはなかったのです。
ゲストのサービス満足度も上がり、成績も良好。
仕事にもなれ、絶好調だった、怖いもの知らずな時期がありました。

それなのに、ふとリチャードは、
ある日仕事後に片付けをしていると真剣な顔で呼びかけてきました。

リチャード:
「Aiko、are you OK?」

アイコ:
「え?何が?大丈夫だよー???」

リチャード:
「アイコ、ここ最近さ、すっごく元気だし、すっごく成績もいいし、ゲストもハッピーだし、いっつもニコニコしてて楽しそうなんだ。」

アイコ:
「うん、パパ。私、今とっても楽しいよ!」

リチャード:
「だから心配なんだ。
君は、いつも気づいたら一人で勉強して一人でやり遂げようとしている。
必要なことがあればいつでも言ってほしい。
君からは何も相談してくれない。だからとっても心配なんだ。」

私はそのリチャードの気持ちが沁みて、
気づいたら涙がいっぱいポロポロ止まらなくなっていました。

本当は、日本語を一言も話さず、英語だけで生活をするのに必死だったし、慣れないシェアキャビンの生活もそうだし、食事もそうだ。ろくに寝れてもいなかった。

本当は、自分がリチャードから言われるまで、不安な気持ちでいっぱいだったってことに気づかずに日々過ごしていたことに、ハッとしたんです。

「アイコ、これからはなんでもいうんだ。
ミケーレでもいいしパパでもいいし、きっとミケーレがアイコに友達の繋がりを作ってくれる。だから心配することもない。
みんなみんな、アイコのことが好きなんだから。」

とまたさらに泣かせることを言ってくれました。

その夜の出来事はすっごく覚えてて、その日から私はもっといろんな人と話をするようになりました。
Let it goしたんですね!


リチャードの話でした。

サポートをお考えいただきありがとうございます。 これからも楽しい記事をかくためのモチベーションとして大切にお気持ちを受け取らせていただきます。