階段 「短歌人」2019年1月号

階段    相田奈緒

七つ上のフロアについている明かり、消える 交差点から見えた

もしかして滅びるのかなポケットの一つもない服なんか着ていて

口にしていい感情かわからない冬ユリオプスデージー揺れる

泣きたくはなくて登っている夜の階段にすれ違う小型犬

タンタンと一緒に冒険してる犬みたいな犬がしっぽをたてて

たしか雪にまつわる名前だったはず 階段はおわって夜の道

雪の森の橇の話を聞きながらその森にあなたを置いてみる

火を点けるときに私は親指を最も速く動かすだろう

立ち止まらないでください花は雪でほとんど駄目になってしまった

階段の光溜まりをざぶざぶと下りてゆくみな産毛逆立て

拭わずに乾くにまかす水のつぶ心の外の出来事だった

真剣になり過ぎている 一日が遅い 速い いちじくのあじ

海の向こう あれやってみたい 取調べの良い警官と悪い警官

セルフィーを毎日撮ればその人は向こうに行ける未来ありそう

花を見てたやすく明るくなる人の体で体を駅まで運ぶ

もし橋がなければ川は渡れない これは話したことの無いこと

顏に日が半分あたる ありがとうお金のことを教えてくれて

そのときまで元気でいようと約束し私は約束を守りたい

このあたりで川はもう一つの川へ 外壁に揺れる旗の影

それぞれの中にはかたくしっかりと果物の芯のように 生き方

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「短歌人」2019年1月号の「卓上噴水」に掲載されたものです。
小さい頃はあの白い犬の名前がタンタンだと思っていた。

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