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スチャダラパーのディスタンス。

スチャダラパー
『シン・スチャダラ大作戦』


日本語ラップ黎明期、ヒップホップを我が国独自のサブカルチャー周辺と接続した功績は後世に語るべき伝説。かつて「文学」と呼ばれたその楽曲世界は、日常から普遍を掴みとり、その普遍をまた日常に循環させる所作がひたすらみずみずしく「最新の和歌」と言うべき古典性がみなぎっている。あのスチャダラパーがもうデビュー30年だという。
ファーストアルバムのタイトルに「シン・」を冠した本作には、自分たちの往年の名曲への返歌「サマージャム2020」もあるが、相変わらず風格や郷愁とは無縁のまま、地べたを悠々と転げ回る。
彼らの楽曲クオリティは、独特の距離感によって保証されている。「スチャダラ・ディスタンス」の効能は、巷に溢れる流行語をリリックに落とし込むとき一際、冴えを見せる。twitterに乱舞する見るに耐えないありきたりな言葉の数々も、適切な距離をとることで新鮮な響きを獲得する。現代に媚びるのでも、乗っかるのでもない「批評」が、凡庸なシニカリズムからもあっさり遠ざかるセンスで、絶妙な心地よさを生む。
自分たちの10代と現代の10代をマッシュアップする「セブンティーン・ブギ」のふくよかな手練手管。韻を踏むのではなく「シン」から始まる単語を連呼し「永遠の行替え」を継続する「シン・スチャダラパーのテーマ」の痛快な脱臼ぶり。言葉に携わる者のひとりとして、その発想と技能と実践(心技体。いや、シン・戯・態?)には、依然としてただひれ伏すより他はない。

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