見出し画像

音楽は、ひとを敬虔にする。Sweet William『SONORAS』

『SONORAS』
Sweet William

 1990年生まれのSweet Williamは、愛知県出身の日本人ビートメーカー。ヒップホップの背景で鳴る音楽を制作するのが、ビートメーカーだが、純粋に音楽家と形容したほうがいいかもしれない。ソロアルバムとしては第3作となる彼の全13曲を聴いて、あらためてそう思う。
 Sweet Williamの音楽には、クラシックの端正さがあり、シャンソンの悲哀があり、吟遊詩人のポエジーがあり、ジャズピアノの親密さがある。瀟洒で、エレガントで、メロウで、押し付けがましさがまるでないのに、すこやかな救済があり、何度でも反復したくなる。疲れない。が、音楽を「聴く気持ち」が、作品を消費しない。つまり、流すことをしない。どこまでも優しく琴線にふれてくるが、BGMに堕すことがない。おそらくこの才能は、どの時代のどの国に生まれたとしても、こんなふうに稀有な響きを奏でていただろう。手をあわせて感謝したくなる。音楽は、ひとを敬虔にする。
 ラッパーを擁した曲が7つ。つまり半数は歌ものだが、それらすべてがイントゥメンタルにも聴こえる。それくらい圧がなく、涼やかな風のようにそよぐ。おそらく彼の音楽でラップすると誰もが熱に頼らない特別ななめらかさを獲得するのだろう。逆にインスト曲には歌心が横溢しており、声ならぬ声を体感するかのよう。
 緻密さも綿密さも、こちらを緊張させないためにある。音を編みあげ、淡く繊細な像で、こころに色彩を施す才人。これからも大切にしていきたい作品集だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?