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きみの鳥はうたえる サウンドトラックについて

きみの鳥はうたえる
オリジナル・サウンドトラック

Hi'Spec

トラックメイカーが映画音楽を手がけるという手法はまだ一般化していないが、今後どんどん当たり前になっていってほしいと思う。 
    映画音楽家が手がける映画音楽は「映画音楽」然としすぎていて、既聴感がありすぎる。一方、ミュージシャンが挑んだ映画音楽は、自分の作品と映画とのあいだで揺れ動いていることが多く、いかにも中途半端だ。つまり、前者はプロフェッショナルすぎるし、後者はアマチュアっぽさが否めない。ところが、トラックメイカーによる映画音楽は、いい意味でプロとアマが平然と共存していて実にすがすがしく、映画そのものに洗練と成熟を付与する。 
    函館を舞台にした本作における映画音楽の役割は、人間の暮らしにまつわる「風土」や、三人の男女の物語から派生する「ぬくもり」に寄り添いバックアップする、静かな頼もしさがある。淡く色を塗る。たとえば、そんなタッチさえ感じさせる、ほのかな、しかし、着実に身体に「ふれてくる」音色。 これみよがしな態度はとらない映像に、誇示を排した演技の数々。そんな映画だからこそ、音楽を「回し」、循環させていくトラックメイカーの作法が効果を発揮する。
    映画公開から一年を経てのリリース。その「遠さ」もまた、奥ゆかしい。残響のように、あの季節を想い出させる名盤。『寝ても覚めても』と並び、日本産サウンドトラックのスタンダードとして、今後広く深く認知されていくに違いない。

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