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明かりあるところで、吐露をする。indigo la End『哀愁演劇』

『哀愁演劇』
indigo la End



川谷絵音率いるindigo la Endの8作目。前作『夜行秘密』が夜のアルバムだとすれば、これは蝋燭の灯のようなアルバム。
 タイトルに露わになっているように、川谷は自身のソングライティングに宿る哀愁性に自覚的に取り組み、さらに批評性を付け加えている。演劇というモチーフがそれだ。
 「芝居」「パロディ」「邦画」という身も蓋もない曲名にはシニカルな自虐ではなく、反語めいた潤いがある。文学的なアプローチだが、自己完結をすり抜け、明かりのある場所で吐露する潔さを、音楽表現ならではの肯定感が下支えしている。
 ときめきも喪失も高揚も落胆も。情況も心象も主観も客観も。すべては演劇。自分で自分を演じている。かなしい自分を演じる自分のかなしさ。まっさらな袋小路。出口なしの受容。ジタバタしている諦念。つたない開き直り。浅い重さ。シンプルな複雑さ。
 しかし、それは恋だけに言えることではない。そもそも音楽がそうなのではいか。表現と呼ばれるものはすべからくパントマイムめいている。自意識が人前で裸になる際に必要となる演技。ある者にとっては芸風であり、ある者にとっては目くばせになる。
 哀愁音楽をかたちづくる川谷絵音はこの演劇を、芸風や目くばせに頼らず、熟成され旨味がのりかかっている歌唱と演奏で成立させる。言葉をのりこえる情緒に、芝居に臨む気概がある。曲順も秀逸。蝋燭がふっと消えるが如く終幕。

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