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紙からうまれる とっておきの世界へのお話

こんにちは、紙meのおかむらです。

突然ですが、あなたのお部屋の壁はどんな壁ですか?

わたしの部屋はというと、カレンダーにカード、リースにおしゃれなコースター、もらったお茶のパッケージ…みごとに紙ものだらけの壁のある部屋で暮らしています。

自分の部屋をもらえた頃からずっと、お気に入りは壁に、というのがマイルール。とっておきを蒐集しては壁に飾って、まるで生活をコラージュするみたいに、自分だけの個展を開いているような気持ち。

みなさんも大切なものやお気に入りを壁に飾った経験があるのではないでしょうか。そうすることで、とっておきの思い出だったり好きな世界にトリップしているような、そんな気がします。



イラストレーター・坂本ヒメミさんの個展『Otherworldly』が、今月の13日から開催されています。

坂本ヒメミ 個展
[Otherworldly]11.13(tue)-11.18(sun)
at @galerie_lemonde 
(引用:Twitter @himemi)


装画や広告など様々な場面で活躍されている坂本ヒメミさん。

描かれる人物やモチーフたちによって、魔法みたいに時間や世界を切り取って異空間に惹きこむようなヒメミさんの作品が大好きで、いちファンとしてもとっても楽しみにしていた個展です。

そこで作品を飾るための『ペーパーフレーム』と、『鏡のような不思議な絵』の紙と印刷加工をディレクションさせていただきました。

真っ白な壁に凛と現れる、ヒメミさんが紡いだ物語のためのイラストレーションとフレーム。

ヒメミさんと相談しながら、ヒメミさんとしかできなかった、半分自画自賛にはなりますが本当に素晴らしいモノが生まれたので、ここからは紙加工ディレクター目線で、携わらせていただいた部分の製作について少しだけご紹介しようと思います。

読んでいただけると分かるのですが、関わる人のアイディアや想像力を、どんな紙で、どんな加工で、どんな順番で…というプランを立てて形にするのがわたしのお仕事。これを読んでくれた方にとってもモノづくりの何かしらのヒントになったらいいなぁ…と、なるべくシンプルに、ポイントを絞ってご紹介しますね。


[paper frame -Black&Brown]


使用紙:[Black] ブラックボード RB(表)、ブラックボード RA(裏)

              [Brown]エクストラカラーボード EA brown 

    (共に株式会社オリオン)

加工:レーザーカット加工 (株式会社ロッカ)

印刷:活版印刷 1c(ピンクゴールド)  (まんまる〇)


2種のフレームはどちらもすべて紙製!ヒメミさんの世界をそのまま写したような形状はヒメミさんご自身のオリジナルデザインです。紙を細やかに、カーブを美しく切り取る加工として、『レーザーカット加工』で仕上げています。(ぜひ実物を見てもらいたいので写真はトリミングしてます。)

加工手順は

レーザーカット加工⇒端面の拭きあげ⇒活版印刷

この理由も追々。


紙のこと

使用した紙はすべて「イラストボード」。今年の9月に一緒に製作させていただいたこちらのアートフレームにも同じ紙を使用しています。

王子と少女のカードとフレームのセット。伊勢丹新宿店で開催されたまんまる〇さん企画『For me,For life』に向けて製作。カードは活版印刷、フレームはUVインクジェット、レーザーカット加工、活版印刷と、紙加工盛りだくさん!(個展会場でも数量限定で販売中。カードのみのセットも)

『額縁を紙で、紙だからできる、オリジナルの形で』というヒメミさんのアイディアを形にしたこのフレームが、今回の個展のフレーム製作のきっかけにもなっています。UVインクジェット印刷を施した後、かなり細かくレーザーカットで抜いています。

飾る、ということを念頭に、しっかりとした厚みがあって、紙だけど長期間飾っても反らず、かつどこから見ても美しいように端面までオールブラックの紙

ということで、選んだのがオリオンの「ブラックボード」。

イラストボードでよく見るものって、カラーものだとの端面まで同じ色のものあまりありません。(真ん中の層は白で、表裏は違うトーンの紙が貼り合わせてあるのが多い気が。横から見ると3色でいまいちまとまらない…)

たまたま足を運んだ画材屋さんで見つけて、これだー!!と即採用しました。ありがとう、トゥールズ新宿店…

イラストレーターさんの作る作品に「イラストボード」を使うというアイディアは、『For me, for life』のすべてのデザインと企画をしていたまんまる〇の若林さんから。

イラストボードは合紙(紙と紙を貼り合わせる加工)をしているのに、1枚で自立するくらいハリがあって反り難いのもポイントです。このおかげでリボンで壁に飾っても、棚の上においてもOKな、しっかりとした仕上りに。


レーザーカットのこと

紙を思い通りの形に抜く加工はいくつかありますが、型を作って抜く方法だとサイズによっては数千円~万単位の初期費用が掛かります。たくさん作るぞ!というときは、型は1000~10,000部程抜く耐久性があるのでいいのですが、今回はそれぞれ10部程を予定していたので、illustratorのパスから出力できる『レーザーカット加工』を選びました。部数を少なく、デザインを数種用意したいな、というときには断然レーザーカットをおすすめします!


加工は「千代切紙」というカットの細やかさが超絶美しい折り紙を作られている株式会社ロッカさんにお願いしました。

(引用:Twitter @BACKStFACTORY)

小ロットから抜き加工ができて、「千代切紙」やこれまで実際にお仕事を依頼していた中で細やかな抜き加工もばっちり!ということはわかってはいたのですが、2mm厚の紙への加工は…!?と少し心配もありました。が!
ヒメミさんの作品の特徴でもある細やかで装飾的なモチーフをきっちりカットできてる!こうした曲線の美しさもレーザーカット加工の魅力だと思います。うっとり…

(おなじく無版でカットできるカッティングプロッターだと、細かいカーブやエッジが難しい場合があるのです。いわんや2mm厚の厚紙…!)


レーザーカットは熱線で溶かし・切りとる加工なので、端面が焦げてべたついたり、あまり細かすぎると紙が負けて切れてしまうこともあるのですが、イラストボードはしっかりと残ってくれて、とても大きな発見でした。

これをきっかけにヒメミさんがデザインを考えてくれたのが今回の2種のフレーム。Brownの端を見るとやや焦げ目が見えて、これが奥行きやアンティークな雰囲気になったのも、ヒメミさんの狙い通り。

上側が特に焦げて見えるのは、レーザーカット機のエアーを吸う方向によるもの。


印刷のこと

伊勢丹企画の際に書き下ろしていただいた”HIMEMI SAKAMOTO”の文字の印刷は、前回同様、活版印刷まんまる〇さんにお願いしました。

活版印刷は凸状の版を作り印刷をする方法。一度版を作ってしまえば、用紙の種類やサイズが違くても同じ版を流用できるのもポイント!(大量に印刷すると版が痛んでしまうので注意)

そもそも、ヒメミさんとわたしを繋いでくれたのがまんまる〇さん。作品のこともご本人のことも深く知っている相思相愛の関係だからこそ、印刷のイメージもお任せでお願いしました。

フレームのサイズはおおよそB4サイズ。機械で印刷できる紙のサイズには限りがあるので(まんまる〇さんではテキンという小型の手動機を使っています)、まずはレーザーカットで最終サイズに仕上げてから印刷をすることにしました。それでも印刷機に入らないかも…?!というピンチもあったのですが、今回は文字のみのワンポイントだったこともあり、機械を少しいじってくれて、しっかりと文字に圧をかけて凹ませることでヒメミさんご本人みたいに凛とした美しい仕上がりにしてもらいました。



入口の鍵穴

作品をセットして、完成したペーパーフレームたち。

それぞれはさみ式の2枚仕立てで、裏面も同じ紙をレーザーカットして製作しています。このアイディアと組立はヒメミさんご自身によるもの。

絵をしっかりと飾れるのはもちろん、むこう側の世界をのぞく窓みたいな、[Otherworldly]の物語の世界により入り込むための鍵にもなっているような気がします。なにより額縁まで全部ヒメミさんデザイン!というのが、なんて贅沢…どっぶり絵の世界に飛び込めてしまうので、ぜひ展示会場で実際に並んでいる様子を見てみてくださいね。


ものすごく文章を削ったうえにまだ途中ですが一旦このお話はここまで!

次回はもうひとつお手伝いした作品について、紙加工目線でご紹介します。


坂本ヒメミさんの個展、[Otherworldly]は18日(日)まで開催!明日!

ヒメミさんの描く物語の世界へ。きっと虜になってしまうはず。



坂本ヒメミ 個展 [Otherworldly] 

11.13(tue)-11.18(sun)

会場:ギャラリー・ルモンド(L’illustre Galerie LE MONDE)


紙や印刷や加工にまつわる色んな方に会いにいく旅に使わせていただきます!